安倍派幹部の「虚言」か、マスコミの「歪曲報道」か

東京地検特捜部が、昨年12月から、全国からの応援検事数十名を動員し、かつてない大規模捜査体制で行ってきた、自民党各派閥の「政治資金パーティー裏金事件」。先週金曜日(1月19日)に、「裏金受領国会議員」3名、派閥と議員の政治団体の会計責任者ら5名の8名が起訴(略式起訴を含む)され、捜査は概ね終結したと報じられた。

東京地方検察庁 Wikipediaより

これを受け、不起訴処分となった安倍派(清和政策研究会)の幹部が、次々と記者会見を行い、「会計責任者が起訴された刑事事件に関することについての言及は控える」と言いつつも、今回の事件に対する説明を行った。

塩谷立座長は、

「(安倍派事務局長側の)誤った説明など長年にわたる事務的なミスリードにより、所属議員事務所の誤った処理をさせた」

と説明し、また、前事務総長の西村康稔氏は、X(旧ツイッター)で、

「清和会の収支報告書の作成と提出は、会計責任者である事務局長において行ってきており、収支報告書に記載しないことについても、長く慣行的に行われてきたようでありましたが、私たち幹部も、今回の問題が表面化するまで知りませんでした。」

「事務局から関係政治団体の収支報告書への記載は不要だとする旨の説明が過去からなされていたと聞いていますが、このため、いわゆる裏金作りなどの意図はなかったであろうに、特に所属の若い議員に大きな傷を与えてしまった」

などと述べて、「裏金作り」の意図を否定している。

これら安倍派幹部の説明は、「政治資金の寄附」として、安倍派と所属議員の政治団体の政治資金収支報告書に記載すべきであった、(記載しておけば何の問題もなかった)のに、(何らかの事情で)記載しなかったという「収支報告書の記載上の事務的な問題」であった、との点で一致している。

その説明のとおりであるとすると、そもそも今回の問題は、「政治資金パーティー券のノルマ超の売上」について、安倍派から所属議員に「裏金」が供与されたということではなく、通常の収支報告書に記載する「表の政治資金」と同様の性格の寄附が行われ、それが、通常の政治資金と同様に使われただけだったことになる。

そもそも、収支報告書で公開しない前提で資金をやり取りし、実際に、その事実を収支報告書で公開しないということ自体が政治資金規正法上、全く許されないものであることは明らかだ。

しかし、それが、常に、実質的に「裏金」と評価されるとは限らない。一般的には、「裏金」というのは、単なる「収支報告書への不記載」にとどまるものではない。「表に出さない金」「領収書不要の金」であり、少なくとも「政治活動費」として使途を公開することに支障があるからこそ「表の政治資金」とは区別して扱うものである。

私の検事時代での経験で言えば、20年前、長崎地検次席検事時代に捜査を指揮した自民党長崎県連事件では、県連幹事長が、収支報告書で公開する「表の寄附」と公開しない「裏の寄附」とを区別してゼネコンから献金を受領し、「裏金」は、表に出せない飲食代等に費消していたこと、年に1回開催する県連政治資金パーティーの収入の一部を収支報告書に記載しないで「裏金」化し、党本部から招いた党幹部への数百万円に及ぶ高額のお土産品の購入代に充てるなどしていたことが明らかになった。

そういうものが典型的な「裏金」であり、それは資金を受け取る時点で、表の金とは明確に区別して管理され、使用するのが通常だ。

キックバックを行う当事者双方が、そのような「裏金」と認識して授受したのであれば、その趣旨と、それを所属議員事務所でどのように取り扱うかについて、所属議員が認識していないことはあり得ない。

安倍派幹部の説明は、「ノルマ超のパーティー収入のキックバック」が、上記のような「裏金」であることを全面的に否定するもので、それが真実だとはにわかに信じ難いのであるが、仮に、そうであったとすれば、昨年12月から約1か月半にわたって、日本の政界に大激震を生じさせ、令和のリクルート事件」とまで言われたこの「事件」とはいったい何だったのか、ということになる。

当初、神戸学院大学上脇博之教授が、自民党各派閥の政治資金パーティーにおいて、パーティー券を購入した政治団体側の収支報告書記載では20万円超となっているのに、派閥の収支報告書には記載されていないものが、5派閥で合計約4000万円あるという「形式的な違反」について告発が行われたことを受けての東京地検特捜部の捜査が、「キックバック裏金事件」に発展していった段階で、各派閥、特に安倍派の会計責任者は、どのように供述していたのか、それを受けて「キックバック」を受領していた議員の事務所の会計担当者の聴取が行われた際には、どのような供述が行われていたのか。