同氏が総裁だった06年はアメリカが住宅バブルで浮かれていたころで日本も当時は73カ月も続いた「いざなみ景気」の真っ只中でした。ですが、日本がそこまで好景気感で盛り上がらなかったのはバブル崩壊の衝撃とその後のリカバリーにあまりにも時間がかかりすぎたことが原因だったと思います。福井氏の緩和引き締めは苦渋の選択だったのでしょう。白川さんはヘリマネ(ヘリコプターでマネーをばら撒くほどの大規模緩和策)まで踏み込めなかったサラリーマンだった、それだけのことです。周りはやんや言いますが、そんな度胸とカリスマ性を持った日銀総裁は指名されにくいのが日本の仕組みであります。その点では黒田氏だけは安倍氏の肝いりだったのですが、結果が出せたとは思っていません。
個人的には日銀が主犯というより日本の景気のコントロールが非常に難しかったということではないかと考えます。先ほど金融政策は経済学のアカデミック的な王道であると申し上げたのですが、日本においてはもう一面あり、学際や業際絡み、特に心理面の影響が大きかったとみています。それはバブル崩壊で日本的雇用の崩壊と非正規雇用の一般化、企業のリストラ、さらには一流企業の倒産続出であります。その上、一部企業はゾンビ化させたことで産業構造と雇用がいびつになったこと、これのほうが主因ではないかと思います。
言い換えればゾンビなんてさせないでバサッとゲームオーバーにすることで雇用の流動化を図るという選択肢もあった気がします。私もそのど真ん中にいて、会社が倒産した際、人生の選択肢としていくつものシナリオを考えました。ただオファーのあった民事再生の支援会社への就職だけは死んでも行きたくないと思いました。それは提示された条件が「雇ってやるぜー」という上から目線で最低最悪だったし、それ以上に自分を安売りしたくなかったのです。
この「自分の安売り」は私の周りで多々見られました。理由は奥方が「あなた、私たちの生活、明日からどうするの?どこでもいいから正社員になって安定をくださいね」でありました。この部分が経済学の王道には出てこないので日銀にはわからないのです。欧米の雇用は切った貼ったの世界で、日本は「雇用の護送船団方式」なのです。これが最大の違いだと思います。
個人的には今回の日銀の金融正常化は問題ないと思います。バブル崩壊の余韻もありません。むしろ、高齢化が進む日本においてリタイア層の貯蓄金利が多少でもあるほうが高齢者には安心安全ではないかと思います。勤労世帯の生活苦ばかりが目につきますが、高齢者にしてみれば金利がない預金は堪えるのです。また日銀が欧米のようにどんどん利上げするとも言っておらず、せいぜい頑張っても0.50%まででしょう。それなら十分金利は低く、生活に影響するという声は甘えに聞こえるのは私だけでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月7日の記事より転載させていただきました。
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