当方は、「イスラエル側は『公平』ではなく、『平和』を求めるべき時を迎えている」と考え出している。もちろん、「平和」といっても、紛争双方の合意に基づいた「和平」は現時点では期待できないが、犠牲が「公平」より少なくて済むというメリットがあるからだ。
ところで、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は1995年11月、3年半以上続いた戦闘後、デイトン和平協定が成立した。その結果、ボスニアはイスラム系及びクロアチア系住民が中心の「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」とセルビア系住民が中心の「スルプスカ共和国」とに分裂し、各国がそれぞれの独自の大統領、政府を有する一方、それぞれが欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟を目標としてきた。
ボスニア紛争は死者20万人、難民、避難民、約200万人を出した戦後最大の欧州の悲劇だった。イスラム系、クロアチア系、セルビア系の戦いは終わったが、現状は民族間の和解からは程遠く、「冷たい和平」(ウォルフガング・ペトリッチュ元ボスニア和平履行会議上級代表)だった。必要に差し迫られた和平だった。
しかし、和平協定後、紛争勢力間で些細な衝突はあったが、大きな戦闘はこれまで回避されてきた。これが「冷たい和平」の成果だ。同じことが、イスラエルとパレスチナ紛争でも当てはまるのではないか。イスラエルとパレスチナ間の「冷たい和平」こそイスラエルが今、戦闘を停止して追及していかなければならない目標ではないか。もちろん、「冷たい和平」が民族間の和解に基づいた「暖かい和平」に進展していく、という期待は排除すべきではないだろう。
話は少し飛ぶが、「トラベリング・イスラエル」という動画によると、イスラエルの合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの推定数)は3.1OECD(経済協力開発機構)で最も高出生率国だ。同国の少数派だが、超正統派ユダヤ人の地域の合計特殊出生率はなんと7.2だ。超正統派ユダヤ人が多くの子供を生む背景にはナチス・ドイツによって失った同胞600万人を取り戻す目的があるといわれ、ユダヤ民族を撲滅しようとしたアドルフ・ヒトラーへの復讐というのだ。
21世紀のイスラエルではリベラルな考えの国民が圧倒的に多くなったが、「ヒトラーへの復讐」は今なお国民の脳細胞に刻み込まれているといわれる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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