アマゾンが、租税回避に熱心だったのは日本だけではない。

ヨーロッパでは、ルクセンブルク・アイルランドなどタックスヘイブンを活用した法人税回避。アメリカでは、収益のない子会社を活用した売上税(日本でいう消費税)回避。ある州では、施設開設時に、雇用確保と経済活性化を代償に、売上税徴収の「不干渉」を勝ち取ったという。

いまだ、アマゾン含むグローバルIT企業は「節税」にいそしんでいる。

欧州委員会の調査によると、従来型企業の法人税支払い率(法人税/売上)は「23.2%」。対して、グローバルIT企業は「9.5%」と半分以下だ(※1)。対策としてOECDが進める「デジタル課税」も署名が延期され、雲行きが怪しくなっている。不平等な状況は、当面続くだろう。

今回のアマゾンのふるさと納税参入を、皮肉を込めて言えば、

「租税回避に力を注いできたグローバル企業が、『日本の住民税』から収益を得る」

ということになる。アマゾンは、どうやって日本の自治体に食い込もうとしているのだろうか?

「値下げ」である。

10%から3.8%へ

アマゾンは、ふるさと納税のコストの一つ「手数料」を値下げし、自治体に攻勢をかけている。

ふるさと納税は、税収が増えるわけではない。それどころか、国全体としての税収は減ってしまう。返礼品や返礼品の「広告」などのコストが発生するからだ。2022年度の減少額は約4500億円。ふるさと納税額の「半分弱」が減少している。

「半分弱」の内訳は、返礼品そのものが約30%。返礼品の発送などが約10%、そして、ふるさと納税サイトの手数料(掲載・広告)が「約10%」となっている。

アマゾンが目をつけたのはこの手数料「10%」だ。

アマゾンは、初期手数料を250万円支払えば、手数料が「3.8%」になるプランを打ち出した。損益分岐点は、およそ4000万円。規模の大きい自治体ほど有利になる。既に複数の自治体にアプローチをしており、NHK(三重)の取材によれば、三重県のおよそ3分の2の市町がアマゾンの接触をうけ、一部は利用する意向だという。

消費者も、アマゾンのふるさと納税参入を、

「ポイントが付くかも?」 「楽天ふるさと納税から乗り換える」 「返礼品が探しやすくなるので嬉しい」

などと歓迎する向きが多い。

アマゾンのEC事業におけるシェアはおよそ30%(21年時点 ※2)。ふるさと納税で同シェアを獲得すれば、3000億円の収益をアマゾンが得ることになる。既存のふるさと納税仲介事業者への影響は甚大だ。

競合は冬の時代へ

アマゾンのふるさと納税参入が報道された3月11日、競合事業者の株価は急落している。

「ふるさとチョイス」運営のトラストバンクを傘下に持つチェンジホールディングスは16.4%、「ふるなび」を運営するアイモバイルは11.0%の下落となった。

アマゾン参入による「ふるさと納税市場拡大」よりも、既存事業者の「シェア縮小」を嫌気した結果ともいえる。この先、ふるさと納税市場の業界地図は、大きく書き換えられることになるだろう。

寄付の汚染

アマゾン参入の影響は、ふるさと納税市場の拡大だけではない。市場拡大に伴い、「寄付」行為そのものを変質させていく。

ふるさと納税は税制度ではなく、「寄付」制度を転用したものだからだ。

ふるさと納税が、(主に)控除対象とする住民税は、「地域社会の会費」である。住む地域の行政サービスを享受した住民が、経費負担として、その地域に税金を納める。この「受益と負担の関係」が住民税の原則となる。納税する地域を自由に選べるふるさと納税は、この原則と相容れない。

そこで、政府が採用したのは「寄付」という方便だった。

「『寄付金』税制を応用する方式をとることとすれば(中略)問題点はクリアされると考えられる」 ふるさと納税研究会報告書 平成19年10月

結果、無償の供与であるはずの「寄付」に、返礼品という「見返り」が求められるようになった。厳しく言えば、寄付行為が歪められ、汚染されたのだ。

政府もこれを予見しなかったわけではない。総務省が、ふるさと納税検討時から連呼していたのが「良識」という言葉だ。平成19年の「ふるさと納税研究会報告書」の、

「各地方団体の『良識ある行動』を強く期待するものである」 ふるさと納税研究会報告書 平成19年10月

にはじまり、以降、各文書で――事あるごとに――「良識ある対応」を記述している。平成30年(総税市第37号)の通知に至っては、わずか1130字の文中に、「良識ある対応」が4回も出現する。

ここまで連呼したのは、「地方団体が寄付者に対して特産品などを贈与すること(ふるさと納税研究会報告書)」、つまり“過剰な返礼品”を懸念したからだ。残念ながら、「良識『ない』対応」がふるさと納税を席巻し、いまや「返礼品」で花盛りとなっている。

「ふるさとへの恩返し」から「お得な返礼品探し」へ。「寄付」という尊い行為を経済行為へ変質させたふるさと納税の罪は、決して軽くはない。強力な外資の参入により、その市場はますます拡大していく。今こそ、見直す時ではないだろうか。

【注釈】

※1 COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL|EUROPEAN COMMISSION ※2 ジェトロ(日本貿易振興機構)主要国のEC市場における動向(eMarketer)

【参考】 ふるさと納税に「アマゾン」参入か|FNNプライムオンライン 『脱税の世界史』大村大次郎著/株式会社宝島社 『 ジェフ・ベゾス果てなき野望』 ブラッド・ストーン著/日経BP社 デジタル課税2025年発効 1年先送り OECDが条約取りまとめ ふるさと納税 県内約3分の2の市町にアマゾンジャパンが接触|NHK 三重県のニュース 『週刊東洋経済24年05月11日号』

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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