黒坂岳央です。

「あの人は経験豊富だから話を聞いてみよう」、しばしば経験は信用のバロメーターになっている。ビジネスオペレーションに限定して言えばこの考え方は確かに正しい。出来立ての和菓子屋より、老舗の和菓子屋の製造工程の方が合理的かつ優れた技術の結集であることは言うまでもないだろう。

しかし、経験豊富であることは必ずしも全体的に見た能力を保証しない。むしろ、自分の経験を過信して時代の変化に取り残される可能性すらある。迷ったら自分の経験より、スキルを信じたいという意見を主張したい。

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20年のベテラン社員は本当に優秀か?

筆者は会社員をしていた頃、ビジネスオペレーションの改革チームで働いていた。経理財務部門(AR)のプロセスを丸ごと海外の会計システムに一新する仕事だった。

その際、現場と何度も協議を重ねてきたのだが、20年来のベテラン社員から猛烈な反発を受けた。「このケースはどうするのか?新システムではあのケースは対応できない」とさすが、長年の経験に裏打ちされたリスクを出して説得力もある。だが、最終的に社はトータルでの合理性を優先して現場の反対を押し切って半ば無理やり導入することを決定した。その際に現場からはかなり文句を言われてしまった。システム導入直後はトラブルだらけで、彼らからさらに文句を聞かされることになった。

しかし、安定稼働するようになったことで、気がつけば導入前に懸念していた問題はすべて自然に解消していた。現場も新しいオペレーションに慣れ、定時に帰るよう余裕も生まれていつの間にか文句も聞こえなくなってきた。数年過ぎた後になると「あの時、あのタイミングで思い切って切り替えてよかったよね」といった酒の席で笑いとともにいいネタになった。

新システム導入を決めたのは、外部から転職してきた外国人役員だった。彼は現場の経験は0だったが、システムや会計のスキルは抜群であった。改革においては経験よりスキルが正しいことがある。むしろ、経験豊富だと大局が見えなくなり、個別具体的なリスクが見えてしまい、変革への対応力がなくなることもあると理解した経験になった。