リスクは将来の不確実なコストなので、それを低下させる努力は、必ず何らかの形態において、現在の確実なコストの上昇となって現れる。当然に、逆も真なりであって、表面的には効率化と称してコストの削減が図られている場合にも、その削減されたコストが一見して明らかな冗費でない限りは、必ずどこかで何らかの形で、リスクの上昇、即ち将来の不確実なコストの上昇を招いている。ただし、リスクは、不確実なものとして潜在化していて、コストとして顕在化していないだけなのである。
そこで、コスト削減が真のコスト削減であるためには、顕在的なコストの削減量よりも潜在的なコストとしてのリスクの増加量が小さくなければならず、逆に、顕在的なコストの削減量よりもリスクの増加量が大きければ、コスト削減は欺瞞になるわけだが、人間社会の避け難き傾向として、欺瞞が横行するのである。
経営者にとって、真のコスト削減は経営技術的に難易度の極めて高いことであるのに対して、見えないリスクを増加させて、見える表面的なコストを削減することほど簡単なことはないから、任期中に成果らしきものを出そうとすれば、欺瞞に流れることは避け難い。しかし、こうした欺瞞を防止することは、おそらくは不可能である。それほどに、真のコスト削減は難しいのである。