通算21年の海外勤務経験をもち、国内外から日本を見てきた筆者が、現在の日本にいちばん欠けていると思うのは「志」である。国も企業も個人も「志」がないことが、失われた20年をもたらし、いまだに改善の方向も見えない原因ではないかとつくづく思う。
「志」は国でいえば国家戦略である。しかし、民主党政権時代に国家戦略担当相が3年間で6人も代わる事実に象徴されるように、日本には明確な国家戦略がない。そのため、韓国の後塵を拝している。
企業も同様である。シリコンバレーのベンチャー企業は一攫千金を夢見て起業していると、日本では思われているようだが、そうではない。彼らは世の中を良くしようという志に燃えて起業している。
スティーブ・ジョッブス氏は、ペプシコーラのCEO候補でもあったジョン・スカリー氏をヘッドハントした。1年半以上、固辞し続けたスカリー氏をくどき落とした殺し文句は、「このまま砂糖水を売って過ごすのか、それとも一緒に世界を変えてみたいか」だった。
そのアップルの志は、「すべての人にパソコンを!」であった。グーグルの「志」は、「世界じゅうの情報を整理して検索できるようにする」ことである。
いずれも掲げた当時は、夢のような大志だった。しかし、こうした大志(夢)があるからこそ、多様なバックグランドをもち、個性豊かな従業員を、実現に向けて邁進させられるのである。
ちなみに渡辺氏の所属したアマゾンのミッションは以下の4つの原則から導かれている。
競合他社に集中するのではなく顧客にこだわる
イノベーションへの情熱
卓越したオペレーションへのこだわり
長期的思考
日本再興の鍵は政策ではなく伝統的日本企業の経営改革
長らく政官と接してきた渡辺氏だが、民に対しても厳しい注文をつける。
「伝統的日本企業の経営者を念頭に」では、「研ぎ澄まされたミッション下で社員が同じベクトルを向き最大能力を発揮しているか」の他に「日本再興の鍵は政策ではなく伝統的日本企業の経営改革」、「『不変の価値の追求』『顧客起点』『経営陣の質』『社会的なれあいの排除』など」も掲げる。
いずれも核心をついた指摘だが、自身の任期を大過なく過ごすため、守りの経営に陥りがちなサラリーマン経営者の多い伝統的日本企業にとっては、高そうなハードルでもある。
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提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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