今年、広島市の平和教育副教材から、被爆体験を基にした中沢啓治作の漫画「はだしのゲン」が削除されました。この正確な経緯は知る由もありませんが、仮に一部で指摘されているように「保守系」の方々からの「サヨク的でけしからん」「日本人を貶めるものだ」というような主張があったとすれば、あまりにも狭量だと言わざるを得ません。自分たちだけが正しいと思い込み、それに反する立場を口を極めて非難して排斥するのは決して「保守」ではありません。
「はだしのゲン」には、戦争に懐疑的な主張をする人を「非国民」と決めつけて排斥しながら、敗戦後は「私はもともと戦争に反対だった」などとぬけぬけと主張して市会議員となる鮫島伝次郎なる町内会長が登場しますが、この鮫島伝次郎的な人物は今の日本人にも多くいるという古谷経衡氏の所説は、まさしく然りと思います。「ムッちゃん平和祭」が大分市の主催で開催され、子供たちが多く参加していることに、安堵する思いがしたことでした。
11月29日、鹿児島県屋久島沖に米軍横田基地所属のCV-22オスプレイが墜落した事故で、防衛省は当初これを「不時着」として発表し、防衛副大臣は緊急会見で「米軍パイロットが最後の最後まで頑張って(陸上の民家に墜ちないように)コントロールしていたのだから不時着水」と述べていたのですが、翌日になって「墜落」に改めました。同様の事故は2016年12月13日にも沖縄県名護市沖で発生しているのですが、この時も防衛省は当初、事故ではなく不時着として発表していました。
先週、「北朝鮮の衛星打ち上げ」を「北朝鮮からのミサイル発射」と発表してJアラートを鳴らしまくり、翌日になって「弾道ミサイル技術を用いた衛星の打ち上げ」と訂正したうえ「軌道に乗ったかどうか確認できない」としていたのを、24日になって防衛大臣が「何らかの物体が地球を周回しているのを確認した」と述べたのも全く同じ構図です。
事実を矮小化し、相手を侮るような発表手法であれば、戦前に「鬼畜米英怖れるに足らず」と侮り、戦局が悪化すると事実と異なる発表をして国民に真実を隠した大本営発表と本質的に変わるところがないと批判されても仕方ありません。日本はかなり危険な局面にあるように思えます。
19年前の2004年8月13日、沖縄国際大学構内に米軍のCH-53Dヘリコプターが墜落した際、私は防衛庁長官在任中でした。消火作業終了後に米軍が現場を封鎖し、機体が搬出されるまで日本の警察も消防も一切立ち入れなかったことをよく覚えています。
地位協定の壁によるものでしたが、その後日米ガイドラインの改定や運用の改善など、どのように行われ、今はどのような対応が可能なのか、再検証してみる必要があります。今回オスプレイが墜落したのは日本国の主権が完全に及ぶ領海上であり、捜索・救難には主として海上保安庁が当たっています。機体の引き上げや原因究明にあたり、この点はよく注意しておかねばなりません。
師走に入り、日々慌ただしさが増してまいりました。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。
編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2023年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?