社会保障会計の赤字を埋める「社会保障国債」
このパラドックスを解決する方法が(理論的には)ある。社会保険料を現在の水準で凍結し、今後の支給増をすべて使途を社会保障に限定した永久国債でまかない、日銀が買うのだ。これを「社会保障国債」と呼ぼう(増額分に限定した政府紙幣でもよい)。
今の社会保障支出のうち約70兆円が社会保障特別会計、約34兆円が一般会計予算の「社会保障関係費」に計上されているが、社会保障が保険だというのは擬制である。賦課方式の社会保障はマクロ経済的には国債と同じなので、一般会計に統合したほうがわかりやすい。
今後の社会保障支出の増加をすべて一般会計に計上すると、当初予算の半分以上が社会保障関係費になるだろう。それによって社会保障の負担と給付の関係が可視化され、財務省のコントロールもききやすくなる。社会保険料は厚労省令だけで増やせるが、一般会計支出には国会の承認が必要だ。
社会保障国債は、特別会計の(オフバランスの)政府債務を一般会計に置き換えるだけだが、一般会計の赤字は増え、税収より借金のほうが多くなる。投資家が合理的だったら何も起こらないが、彼らが「社会保障支出が無限に膨張する」と予想して国債を大量に売るかもしれない。
インフレはコントロールできるかそれを日銀がすべて買うと、マネタリーベースが大量に供給され、インフレが起こるが、これは政策金利を上げればいい。ただし社会保障給付は2040年には190兆円になると予想されているので、このまま国債を増発すると、金利上昇で国債が発行できなくなるリスクがある。
問題は財政赤字の費用対効果である。需要不足のときは金利上昇やインフレのリスクはそれほど深刻ではないが、老後の不安は深刻だ。首相が「社会保険料は今後は上げない」と約束したら消費は増え、成長率は上がるだろう。
ただし社会保障国債は長期金利が名目成長率より低い(r<g)場合には効率的だが、景気がよくなってr>gになったら、財政赤字の増加を止めなければならない。このとき歳出削減できるかどうかがむずかしい問題だが、あらかじめ歳出の優先順位を決め、金利が一定の水準を超えたら不要不急の歳出を止めるルールをつくればよい。
最大のリスクは、財政赤字が社会保障国債でファイナンスできると、財政規律が失われてインフレがコントロールできなくなることだ。これについては日銀政策委員会が金利や物価を監視し、国債発行をコントロールするというのがターナーの提案である。これには日銀法の改正が必要だが、今後はこういう財政と金融の協調も必要だろう。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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