個人的にはそろそろマスク氏がまた何か言ってくると思います。覚えていらっしゃる方もいると思いますが、マスク氏は今年、急速に展開するAI開発に倫理的見地から半年ぐらい開発を中断し、あるべき方向を議論すべきだ、と言っていました。その点からすればマスク氏も相当な効果的利他主義者であるのかもしれません。

さて、会社経営の見地から見るとサツキーバー氏を中心としたグループがいとも簡単にアルトマン氏とブロックマン氏を会社から追い出せたのはなぜかと言えば究極的オーナーがなく、会社の組織図上、トップは非営利団体なのです。そしてその下にぶら下がる持ち株会社にはマイクロソフトの影響力はなかったのです。何故なら同社はさらにその下にぶら下がる会社に1.5兆円を投じているからです。持ち株会社にマイクロソフトから役員すら送り込めないいびつでユニークな組織であり、6人で会社の全てが決められる仕組みの中で仲間割れが起きて今回の様な解任劇がいとも簡単に行えたのです。

ではこの先どうなるか、ですが、茶番に予想は禁じ手ですので何とも申し上げられませんが、3つしかシナリオはありません。①はマイクロソフトが用意したAI開発の子会社にアルトマン氏らが経営者として入り、オープンAIの大多数の社員もそこに移籍する ② アルトマン氏らがオープンAIに戻り、社員も残留し、クーデーター犯だけが処分される ③ 仲間割れをおこしたサツキーバー氏を含め、元の鞘に戻るのどれかです。お前ならどう思うか、と言われたら②か③の気がします。

①にした場合、マイクロソフト社は漁夫の利とされますが、AI開発の哲学、倫理的思想はないがしろにされるでしょう。故にマスク氏あたりがここで何かコトを興すのではないか、という気もしています。またオープンAIの12兆円の価値がゴミと化すのか、という点もクリアではありません。マイクロソフトとしては投資したOpen AI Global LLCを買収することで投資損を避けることができるのかもしれませんがそれを誰が同意するのかも不明瞭だし、最終的にオープンAI組織の中に巨額の利益が浮遊してしまう気もします。

一方、②ないし③の場合、非営利団体がトップにある非常にいびつな組織形態が残ることになり、社内統制やガバナンス、コンプライアンスは仮に一部の役員が入れ替わっても実態は変わらないでしょう。

今回の茶番は、表層はドラマ仕立てですが、本質的には難解なこの問題の議論を避けるのか、議論を進めるのか、という点で大きな岐路にあるとも言えそうです。

個人的にはこの問題、AI君に聞いてみたいと思います。効果的利他主義と営利主義を両立させるためにオープンAI社はどういう立ち位置を取るべきか、と。そしてアルトマン氏が最後は何をやりたいのか、そこがキーポイントである気がします。結局技術は高度ですが、扱う人たちは人間としてはまだ若い、ということも言えるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月22日の記事より転載させていただきました。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?