もう一つの主要経済エリアである欧州経済の不振が世界経済のバランスという点で影を落としています。欧州経済がなぜ不振なのか、これを議論するとこの紙面では全く収まらなくなるので私見を一言だけ述べると、欧州各国における歴史的な労働硬直性と社会保障制度、移民/難民問題が重くなっているうえに、EUの括り、特にシェンゲン協定が欧州各国が本来持つ強み弱みを均質化させ、平凡な集団国家に変えてしまったというのが私のたった一言で述べる欧州経済弱体化の道であります。

今回、トランプ氏が本当の隣国であるメキシコとカナダにも関税による脅迫を行い、カナダはもしもそれが実施されるなら報復関税を行うと明言しています。ただ、カナダがアメリカと戦っても勝ち目がないのは自明であり、アメリカのブラックホールになす術がないというのが現状ではないかとみています。

普通、近隣窮乏化政策というのは自国通貨の価値を下げることなのですが、ドル基軸を利用し、アメリカは逆に自国通貨の価値がどんどん切りあがる中での近隣窮乏化を進めている形になっています。パウエル議長の悩みはインフレ率がここに来て下がりにくくなっていることがあり、アメリカ人の購買力の強さを示すものとなっています。いうまでもなく、世界でアメリカに経済的に太刀打ちできる国家や地域がないことが全てを語っているのです。おまけにアメリカは軍事力、政治力、発言力まであらゆる方面での強さを維持しています。

かつてビックバンという言葉がありました。金融の世界などで使ったと記憶しています。この語源はもちろん膨張する宇宙のことを指しているのですが、閉じた宇宙を前提とするなら膨張は逆転し、ビッククランチという大収縮が始まります。またブラックホールは最終的に大爆発をすると想定されています。

つまり世界経済は無限の成長が可能なのか、一定の枠組みを超えることができないのか、そしてもしもその力に歪があり、均質ではない社会が生じた時、それがもたらす影響はどうなるのか、という検証は宇宙論も経済論でも同じ範疇なのかもしれません。