とにかく物価は日銀の「2%目標」を超えていますので、賃上げが順調ならば、金融政策の方向性を変える(利上げ、緩和規模の縮小)というのが植田総裁のスタンスです。
ここで問題になるのが「賃金が上がらなかった基本的な理由は生産性が上昇しなかったからだ」という点です。生産性とは一人当たりの付加価値(売上高から原価を引いた粗利に近い)です。付加価値が上がらなければ、政府主導の賃上げ(官製春闘)は一過性で終わります。野口氏の見立てです。
野口氏は「米国はAI、生成AI、ビックデータ、データサイエンスなど強力なエンジンで駆動されている。日本の経済構造は1980年代のままだ」と指摘します。日本は情報通信産業、デジタル化産業が成長していない。
日本のデフレの原因は、経済構造の転換の遅れ、成長の停滞にあるのに、日銀が「デフレは金融的な現象」と頑固に信じてきました。異次元金融緩和、財政拡張が長期にわたり、円安で企業収益は労せずして増えました。日銀のETF(上場投資信託)購入で株価が高値に維持され、企業経営者は安閑としていられたのです。ぬるま湯です。
こういう実態に対して、「マイナス金利をいつ廃止するか」、「YCC(長短金利操作)をいやめるか」といった問題にとどまっていたら、日本経済が停滞から抜け出すことはできません。かりに出口(異次元緩和の方向転換)に差し掛かったとしても、これは「出口といっても、出口の入口」にたどり着いたのに過ぎないのです。何年もかかる。
こんな状態を招いたのは、大規模金融緩和と財政膨張策があまりにも長く続いた結果であり、大胆に政策転換しようとすれば、市場が大きく動揺するのでためらってしまう。その大きな原因は長すぎたアベノミクスと、それを継承せざるを得なかった岸田政権にあります。
旧統一教会と自民党との深い関係、特に安倍派のパーティー券収入の不透明な資金還流、息を吹き返した地検特捜部、大規模金融緩和の方向転換など、政治を巡る潮流が変わってきたように思います。
安倍政治とはいかなるものだったのかの再評価が必要になりました。「安倍晋三回想録」(中央公論新社、オーラルヒストリー)、「安倍晋三実録」(元NHK記者)、右翼系の月刊誌の安倍神格化特集など、もっぱら肯定的評価、礼賛を底流とした安倍晋三論が目立ちました。大規模金融に「出口」が必要なら、安倍政治の「出口」も模索しなければなりません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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