IT時代を迎え、情報は至る所に氾濫している。聞く人も情報には慣れている。有権者の心を掴む演説が出来ない政治家にとって、21世紀は厳しい。逆に、演説の巧みな政治家がいる。彼らの特徴は、その演説内容が専門性があるとか、理性的だというより、感情的な表現が多いことだ。

オーストリアでは極右政党自由党のキックル党首の演説をよく聞くが、内容は別として聞くものの心を掴み、時にはユーモアを入れ、政権を厳しく批判する。間の取り方もうまい。キックル党首の自由党が世論調査で30%を獲得して、選挙戦レースを独走しているが、けっして偶然のことではない。与党国民党のネハンマー首相、緑の党のコグラー副首相も演説力ではキックル党首に負けている。有権者の心、彷徨う感情の世界を掌握しない限り、選挙では有権者の票を取れない。

ここまで書くと、当方はエモクラシ―支持者であり、プロパガンダに長ける極右政党の党首を支持していると受け取られるかもしれないが、事実はそうではない。現実の政治の世界、選挙の動向で国民の「感情」のもつ影響力を無視できないからだ。

民主主義がエモクラシ―にとって代わられることは危険だし、選挙戦での政策論議は重要だ。有権者の感情にアピールするだけでは政治はできない。有権者が聞きたくないことをも、それが必要であるなら整然と語る信念のある政治家は稀だが、貴重な存在だ。ただ、感情を重視するエモクラシ―を表面的で薄っぺらいと一蹴するのは良くない。人は、有権者は、その時々の感情に動かされる存在だからだ。人の感情を止揚できるような演説が出来れば、その政治家は大きな影響力をもつだろう。民主主義から「D」を消したエモクラシ―を極右政党のプロパガンダの専売特許とさせてはならない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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