ちなみに、故ナワリヌイ氏のユリア夫人は停職処分されたサフロノフ神父と彼の家族のための寄付を呼びかけている。未亡人は24日夜、ショートメッセージサービスXに「神父の死者への祈りに非常に感謝しています」と書いている。ナワリヌイ氏は2月16日、収監先の刑務所で死去した。47歳だった。同氏は昨年末、禁錮19年を言い渡され、過酷な極寒の刑務所に移され、そこで亡くなった。

モスクワ総主教庁は、ウクライナ領土のロシアによる併合と隣国への攻撃戦に反対した聖職者に対して聖職を剥奪している。キリル1世は2009年にモスクワ総主教に就任して以来、一貫してプーチン氏を支持してきた。それに対し、世界教会評議会(WCC)は、ロシアによるウクライナ攻撃を「聖戦」と呼ぶことに強く反対している。

一方、イランではイスラム革命後、45年余り、イスラム聖職者による統治政権が続いてきた。聖職者政権は今日、国民経済の大部分を支配下に置いている。例えば、ハメネイ師が管理するセタードは数十億ドル規模のコングロマリット(複合企業)を率いて中心的な役割を果たしている。ハメネイ師の経済帝国は、重要な石油産業から電気通信、金融、医療に至るまで、多くの分野をその管理下に置いている。一方、ハメネイ師の支持を得て大統領に選出された強硬派のライシ大統領はイラン最大の土地所有者の経済財団を主導している、といった具合だ(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。

イラン聖職者統治政権は、パレスチナ自治区ガザを支配する「ハマス」だけではなく、レバノンのヒズボラ、イエメンの反政府武装組織フーシ派などイスラム過激テロ組織を軍事的、経済的に支援し、シリア内戦ではアサド独裁政権をロシアと共に軍事支援してきた。そしてライシ大統領はそれらの活動をイラン革命45周年の成果として誇示する一方、イスラエル壊滅を呼び掛けているのだ。同大統領は聖職者であり、ハメネイ師の亡き後の有力な後継者だ。

聖職者はどのような人だろうか。少なくとも神の召命を受けた人だろう。燃え上がる使命を感じて歩む聖職者もいるだろう。過去には、聖人と呼ばれた聖職者がいた。現在も義人、聖人ともいえる聖職者がいるはずだ。彼らは自身の命を捨てても他者のために生きる。‘地上の星’というべき人たちだ。義人、聖人の存在は同時代に生きる人々に希望を与えてくれる。キリル1世、ハメネイ師、ライシ大統領の看板は聖職者だが、和解と許しを説くのではなく、憎悪を煽っている。和平の代わりに聖戦と叫び、人殺しを呼び掛けている。

世俗化した社会、国では「政教分離」が施行されているが、独裁専制国家では宗教が統治手段となったり、国民を宗教の名で圧政したりするケースが見られる。共産主義社会では「宗教はアヘン」と呼ばれてきたが、ロシアやイランでは今日、宗教が積極的に悪用されている。中国共産党政権でも共産主義による国民の統治が難しくなってきたことを受け、愛国主義教育が奨励されてきたが、その際も宗教が一定の役割を果たすように強いられている。

ウクライナ戦争、中東紛争と世界は激動の時代に突入してきた。宗教指導者の役割は大きい。それだけに似非宗教者、聖職者も出てきた。聖職者の資格が問われる時代だ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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