中国は人民解放軍を擁している以上、日本とは外交スタンスが根本的に違う。日本は憲法の縛りを受けており、また先の大戦における枢軸国の立場があるが故に、時代を巻き戻すような外交スタンスは取ることは出来ない。中国の場合、専制主義国家であり、かつ自称連合国側にいる国家として、国連の常任理事国の立場がある以上、アメリカ同様、国連加盟国の戦争状態には相応の責任を求められる。
つまり、国家間の紛争に対して、人民解放軍を送り出す責任があるのだ。それが常任理事国の責任であり、だからこそ、拒否権という強力な権力を行使することができる。中国の現在の目的は、日本との領土、領海問題、台湾問題、インド国境問題、チベット・ウイグル地域の統治問題を抱えていながら、表面的にはそれらの問題に対処していることになっている。実際は、何もしていない。
何もする必要がない。外務省や中国共産党のスポークスマンに、口先外交をやっていれば良い。中国の周辺国は、人民解放軍の本当の実力に懐疑的で、有事の際に人民解放軍が実力行使をしたことが無いため、その戦力を過剰評価している点がある。加えて中国が保有している核兵器についても、実際に核弾頭を積んだICBMを撃つ可能性や、戦略核の使用は無いまでも戦術核使用に中国が踏み切るかどうかについても、疑問を呈する専門家は多い。
実験を繰り 返したり実際に核弾頭を搭載可能なミサイルの開発を進めているとしても、過去の冷戦時代同様、本当に撃つことについて、中国共産党は及び腰ではないか?と言う見方だ。
アメリカは逆に、先の大戦以後、朝鮮戦争、中東問題、ベトナム内戦、レバノン、ドミニカ、グレナダ、パナマ、湾岸戦争、ソマリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、リビア、アフガニスタンに関わり実戦を積み上げてきた。
中国共産党はもとよりアメリカとことを構える気持ちは全く無い。アメリカと今以上に緊張関係を高めても、中国が不利になることを知っているからだ。それは、軍事的なプレゼンスの違いによる。アメリカは過去を踏襲し、いざとなればガザ地区への攻撃も辞さないだろう。
現在、紅海で民間船舶を攻撃しているイエメンのフーシ派に対しても、いざとなれば徹底的な攻撃を仕掛けるに違いない。恐らくはイエメン国内のフーシ派の拠点は衛星とスパイを通じて掌握しているだろうから、いざとなれば直接爆撃も行う可能性が高い。
では、アメリカの行動に対してイランはイスラム革命防衛隊を使ってアメリカに対し反撃を行うだろうか?
その可能性は低い。当たり前のように判で押したようなアメリカ批判は行うだろうし、小規模のやり合いはあるかもしれないが、サウジアラビアを越えてまで、アメリカ軍に関わろうとはしないだろう。最終的にはことの発端であるハマスを批判することになる。カタールやレバノンにいるハマスの幹部批判も行うかもしれない。イランはどうせならハマスの幹部がために溜め込んだ私有財産を狙う可能性が高い。繰り返すが、中東のイスラム教国は、全然、一枚岩などではない。
そして、アメリカが中国に注文をつけるとすれば、軍事的なプレゼンスに加われと言うメッセージではなく、余計なことをするなと言うメッセージではないだろうか?
ウクライナとロシアの紛争において、中国は中立的な立場で最終的には両国の仲介役を買って出ることで国際社会の立ち位置を高めたいと考えている習近平は、プーチンに対して、エネルギーを買ってやるし、北朝鮮から弾薬を仕入れる仲介はするが、間違っても戦術核を使うようなバカな真似はするなと説得するだろう。
ロシアが戦術核を使用してしまうと、中国が恭しく仲介役に乗り出すシナリオが崩れてしまう。そうなれば、中国が最も狙っているウクライナ復興に向けての中国介入のシナリオが崩れてしまう。
だからこそ、現在の中東問題に対しては、アメリカから、中国人民解放軍の派遣は容認するとしても、他の欧米各国と歩調を合わせろとは言わないだろう。
元々、地政学的に見て中国は中東問題には関心が無かった。そして、口出しできるだけの政治力を持ち合わせていない。その役割を果たせる国があるとすれば、どちらにも片寄せしない日本くらいしかない。
もし中国がイスラエル批判に終始し、パレスチナを擁護すると言うことは、すなわちイランを擁護することになるとアメリカは考えているだろうから、そうなれば今よりも一層、過酷な国際社会の経済制裁に発展する可能性がある。
以前から、幾度も触れてきたように、中国の国内経済は不動産市場が総崩れになることによって、国内消費はデフレに向かいつつある。これまで中国経済を支えてきたのは、国内の製造業と先進国への輸出だったのだが、そもそも、輸出で儲けるお金を国内で還流させて国内消費に振り向けることで、経済発展をしてきた、その基盤が根底から崩れようとしている。
仮に金融機関の救済に中国共産党が乗り出すとすれば、すべての不動産市場の企業を国有化するか、大量の人民元を供給して不良債権の処理に向かうしかない。それはつまり、日本の失われた30年と同じ道を辿る。
経済規模が大きいのと、共産党一党独裁主義は、むしろ強権を発動して不動産市場の混乱を抑え込むかもしれないが、それはつまり、国内のインフラ整備や製造業支援を過度に遅らせることになる。
果たして、一度でも経済的な豊かさを経験した中国国民がそれを容認するだろうか?
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以後、
・中東ドミノと米中ドミノの影響
続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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