欧州議会選でドイツ社会民主党(SPD)の筆頭候補者カタリーナ・バーリー氏は「ターゲスシュピーゲル紙」との会見で、「トランプ氏の最近の発言を考慮すると、欧州は米国の核の傘にもはや信頼することはできない」と指摘し、EUに独自の核抑止力が必要であると示唆している。

興味深い点は、ガブリエル氏もバーリー氏もSPDに所属していることだ。ドイツでは過去、軍事力の強化などの安保問題では中道右派「キリスト教民主社会同盟」(CDU/CSU)が議論を先行させてきたが、ウクライナ戦争が始まって以来、SPDが軍事力の増額やウクライナへの武器支援などで積極的に論議している。ガブリエル氏は、「欧州最大の経済大国ドイツは欧州の抑止力強化に関する議論を主導していくべきだ」と、SPD主導のショルツ現政権に発破をかけているほどだ。ちなみに、CDU/CSU国会議員団のヨハン・ワデプル副議長は、「現時点ではそのような目標(欧州独自の核抑止力)には政治的、戦略的、技術的、財政的根拠がない」と、バーリー氏の独自の核抑止力論について時期尚早と受け取っている。

欧州の核抑止力は現在、NATOがその責任を果たしている。ストルテンベルグNATO事務総長は、「欧州全土でNATOの核抑止力を維持することは米国の利益と依然合致している」と説明、近未来、米国の戦略が変わることはないと強調している。

現在、EUで独自の核兵器を保有している国はフランス1カ国だ。英国も核保有国だが、EU離脱(ブレグジット)以降はEU加盟国ではない。米国の核の傘の代わりに、フランスの戦略核が欧州の核の傘の役割を担えばいいという主張もあるが、核拡散防止条約(NPT)の制約もあって実行には難しい問題がある。米国の核兵器は現在、欧州ではイタリア、ベルギー、オランダ、ドイツのラインラント・プファルツ州のビューヒェルに保管されている。

なお、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、「平和を望む者は戦争の準備をしなければならない」と述べている。第2次世界大戦後、長い平和の時代を享受してきた欧州は、ロシア軍のウクライナ侵攻後、その安全保障政策の抜本的な見直しを強いられている。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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