仕事に取り組もうとするとき、つい先延ばし・先送りしてしまう。そんなとき、多くの人が「自分はなんて意思が弱いんだ」と自分を責めがちです。しかし実は、意思の力はあまり関係ありません。
「人間の脳には2つの脳(性質)があり、そのうちのひとつをダマすのが先延ばし・先送りの解決の鍵」。そう語るのは時短コンサルタントの滝川徹氏。
今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、先延ばし・先送り発生のメカニズムと解決法の解説を、再構成してお届けします。
やらなくてもいいが、それ以外は何もしてはいけない新人の頃、頭ではやらなければいけないとイヤというほどわかっていたのにどうしても取りかかれない仕事があった。毎朝「今日こそはやるぞ!」と決意する。しかしいざ仕事がはじまると、ほかの仕事を理由に「あとでやろう(そう、あのお決まりのセリフだ)」と先延ばしをしてしまう。
そうして1日の最後になり「明日こそは絶対にやるぞ!」とまた固く決意する。翌日になるとまた同じことを繰り返す。そのヘビーローテーション。その後その仕事がどうなったかって? あぁ、もちろん大炎上だ。
なぜ自分はこんなにも意志が弱いのだろうか……。昔はそう自分を責めた。しかしどうやら意志の力はあまり関係なかったようだ。これは単なる言いわけじゃない。タスク管理の名著『仕事に追われない仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者マーク・フォースターがこのことを教えてくれた。
マークによれば、人間の脳には2つの脳(性質)があるという。そのうちのひとつの脳をダマすこと。これが先延ばし・先送りを解決する鍵だと言うのだ。2つの脳? 脳をダマす? きっと今の君の頭には大きな「?」が浮かんでいることだろう。だが、大丈夫。どういうことかはイギリスの著名作家の仕事術を紹介しながら、めちゃめちゃわかりやすく説明しよう。
Netflix(ネットフリックス)でドラマ化された『サンドマン』をはじめ、数々の作品で知られる作家ニール・ゲイマン。著名な作家とはいえ、彼にとっても執筆することは簡単なことではなかったらしい。そんな彼の執筆時の最大のルールは「文章を書かなくてもいいが、書くこと以外何もしてはいけない」というものだった。
イスに座って、何もしなくてもいい。ぼーっと景色を楽しむのも自由。ただしクロスワードをしたり、本を読んだりしてはダメ。友達に電話するのももちろんNG。書くこと以外、何もしてはならなかった。
そうしてイスに座り景色を楽しんでいても、5分も経つと何もしないことに飽きてくる。何もしないよりは文章を書くほうがまだおもしろい。ニールはやがて、文章を書きはじめるのだった。
ニールのこの手法は秀逸で、実に理にかなっている。その理由についてマークの言う2つの脳の仕組みを紹介しながら解説しよう。
2つの脳を対立させないマークによれば、(科学的に厳密な表現ではないが)人間には「理性の脳」と「衝動の脳」の2つの脳があるという。理性の脳は簡単に言えば、計画を立て実行を指示する脳だ。一方、衝動の脳は本能に従って直感的・反射的に反応する脳となる。そしてポイントは、理性の脳と衝動の脳が対立すると基本的に衝動の脳が優先することだ。
たとえば、作家が文章を書こうと計画するのは理性の脳による。しかし、いざ文章を書こうとすると「今日は気分が乗らないからやめておこう」となるのは衝動の脳が「やりたくない」「めんどくさい」と感じ、理性の脳に対立・優先するからだ。
ということは逆に言えば計画通りに仕事に取り組みたいなら2つの脳を対立させなければいいということになる。マークはその方法について次の通り書いている。
「この仕事は怖くない!」と自分自身をダマすことです。あまり賢いとは言えない〝衝動の脳〟は、この〝理性の脳〟のたくらみには気づきません。
『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則』