羽田事故

羽田空港に着陸したJALのエアバス(JAL機)が、地震の被災者に救援物資を輸送すべく待機中の海保機に衝突するという事故は2日17時47分に発生した。海保機の5名が死亡し、機長が重傷を負った。JAL機では搭乗員と乗客が冷静に行動し、379人が炎上する機体から生還した(14人が負傷)。

「日経ビジュアルデータ」が9日、3DのリアルなCG画像と共に国土交通省が公表した交信記録を報じた(英語の交信は省略。日本語は国交省による仮訳)。

17:43:02 JAL機(JAL516):「東京タワー(管制塔)、JAL516 スポット18番です」

管制塔(Tokyo TOWER):「JAL516、東京タワー こんばんは。 滑走路34Rに進入を継続してください 。風320度7ノット。出発機があります」

17:43:12 JAL機(JAL516):「JAL516 滑走路34Rに進入を継続します」

17:44:56 管制塔(Tokyo TOWER):「JAL516、滑走路34R着陸支障なし。風310度8ノット」

17:45:01 JAL機(JAL516):「滑走路34R 着陸支障なし JAL516」

17:45:11 海保機(JA722A):「タワー、JA722A C誘導路上です」

管制塔(Tokyo TOWER):「JA722A、東京タワー こんばんは。1番目。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」

17:45:19 海保機(JA722A):「滑走路停止位置C5に向かいます。1番目。ありがとう」

衝突はC滑走路上で起きた。海保機は管制塔からの「C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」との指示を「滑走路停止位置C5に向かいます」と復唱した。が、「滑走路停止位置」に止まっていたなら衝突は起きないから、何らかの事情で滑走路に進入したことになる。

日経記事は東大先端研伊藤恵理教授のコメントを「新技術の導入を」との小見出しで載せている。

現在の航空交通管理のインフラ基盤は1950〜60年代にかけて確立した。それから通信・航法・監視技術が発展しデジタルデータを利用できるようになったこともあり、刷新の動きが2000年代から世界中で始まっている。管制官とパイロットが音声ではなくデータでやりとりする仕組みや、空港の全航空機の飛行情報を共有して離着陸の間隔を安全に自動制御するシステムの研究開発も進む。

伊藤教授はこう述べて、新技術の研究開発や導入に伴うコスト問題を世界が足並みを揃えて解決し、再発防止に向けて管制官やパイロットを支援する新技術の導入に繋げなくてはならない、とコメントを結んでいる。そうした取り組みが実現するならそれに越したことはない。が、時間も掛かるだろう。

韓国紙「朝鮮日報」は4日、「羽田の奇跡を生んだ『90秒ルール』」とは」と題し、非常時に全ての乗客が90秒以内に脱出できるように備えることを定めた「90秒ルール」が、1967年に米連邦航空局が全航空機メーカーに要請して以降「試行錯誤を経て徐々に詳細が定められてきた」ことを報じた。

すなわち、80年にリヤド空港で起きた事故で、緊急着陸に成功しながら操縦士が避難指示を出せなかったために301人が煙を吸って死亡したのを契機に、客室乗務員にも乗客を脱出させる権限を付与したことに触れ、羽田で「客室乗務員たちが肉声と拡声器で脱出を指示できたのはこのためだ」とした。

これもバークの言う「既存の制度にある有益な要素は温存され、それらとの整合性を考慮した上で、新たな要素が付け加え」るという「システムを維持しつつ、同時に改革を進めてゆくやり方」であろう。その観点から、筆者は交信記録に「否定語」が一切使われていないことが気になった。

もしあの時、管制塔が海保機に対して「滑走路に進入してはダメ」と「付け加え」ていたら、海保機は「滑走路に進入しない」と復唱したはずだ。つまり「長年にわたって機能してきた社会システム」をアナログだからと「廃止」するのではなく、「新たな要素付け加え」るということ。

近頃の子育ては「褒めて育てる」式が流行りだが、筆者の頃は「足を拭かずに上がっちゃダメ」「歯も磨かずに寝ちゃダメ」とインパクトの強い「否定語」のダメダメ尽くしだった。海保機に求められたのも「飛び出すな 車は急に止まれない」式の「滑走路に進入しない」ことだった。

岸田首相は昨年12月、「明日は必ず今日より良くなる、こうした日本をつくっていきたい」と述べた。「其の言や善し」だが、今日何もせずに明日が良くなるはずもない。改正を重ねた現行政治資金規正法の徹底遵守も、管制塔の交信に「否定語」を加えることも今直ぐにできる。首相は直ちに指示すべきだ。

因みに「其の言や善し」の全文は「人の将に死なんとする 其の言や善し」で、辞書には「人が死に臨んでいう言葉は、純粋で真実がこもっている」とある。が、筆者に他意はない。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?