注目される英米の著作権侵害訴訟判決

新聞協会が取り上げている事例は、マイクロソフト、グーグルなど米プラットフォーマーによる新聞コンテンツの使用事例である。

米国では2022年11月のChatGPTの登場以来、著作権侵害訴訟が頻発した。今年から出始めると思われるそれらの判決の中でも注目されるのは「米地裁 生成AIの著作権侵害訴訟に初の注目すべき判決」で紹介したロイター事件判決である。

被告は事実審理なしに法解釈だけで判決を下す略式判決を要求したが、30条の4以上に柔軟な権利制限規定といえるフェアユースの判定は具体的事実に依拠する部分が多い。

このため、陪審による事実認定に結論は委ねたが法律解釈を示した判事は、多くの大規模言語モデル(LLM)がそうしているように創造的な表現を複製する目的ではなく、言語パターンを学習する目的で著作権のある作品を摂取し、それらをAIの訓練用に使用することは変容的利用でフェアユースに該当すると判示した。このため、今春予定されている陪審の事実審理が注目される。

仮に学習目的での著作物の利用は変容的利用でフェアユースにあたると判定されると、享受目的が少しでもあると30条の4は適用されないとする素案の考え方は、資金面、技術面で米国勢や中国勢に遅れを取る日本の生成AI事業者を法制面でも縛り、競争上不利な立場に追いやりかねない。

英国でも昨年12月に注目すべき判決が下された。Getty ImagesはStability AIが、①同社のウェブページから数百万の画像を学習させた、②英国の利用者の求めに応じて画像を表示したなどとして著作権侵害でStability AIを訴えた。Stability AIはAIの学習や開発は米国で行われていると抗弁したが、英高等裁判所の判事は事実審理が必要だとして、陪審の事実認定に判断を委ねた。

英国の裁判所なので、米国の生成AI事業者に有利な判定を下すかどうかはわからないが、下した場合は要注意である。新聞協会が紹介している侵害事例は、米生成AI事業者によるものなので、日本で権利者が彼らを訴えても同様の抗弁をされる可能性が高いからである。

「日本は機械学習パラダイスか?米生成AI訴訟判決は問う!」で指摘したとおり、こうした諸外国の状況も十分検証する必要があるので、以下のように結ぶ知財学者意見に全面的に賛同する。

「素案」はあくまで現時点での論点整理についての小委員会の議論をまとめたものである。今回の「素案」は「一つの法解釈のたたき台」(経済産業省「はじめに」『電子商取引に関するで指摘したとおり、こうした諸外国の状況も十分検証する必要があるので、以下のように結ぶ知財学者意見に全面的に賛同する。準則(令和4年4月)』も参照)としての意義はあっても、それ以上の権威をもつべきものではないし、もたせるべきものでもない。

以上の理由から、「素案」の冒頭やその概要の説明において、法的な拘束力をもつものではなく、公的に承認された解釈を示すものでもないことを明示し、強調すべきである。

『国破れて著作権法あり ~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか』

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?