日本共産党の「日米安保廃棄論」
周知のとおり、日本共産党は「日米安保廃棄論」を主張している。党綱領四では「日米安保」を廃棄し日米友好条約を締結すると規定している。その理由は、「日米安保」は米国の世界戦略の一環であり、日本を守るものではないからという。
具体的には、「在日米軍は、海兵遠征軍・空母打撃群・遠征打撃群・航空宇宙遠征軍という四つの殴り込み部隊で構成されており、いずれの部隊にも日本防衛の任務はない」(赤旗2024年5月7日)と主張し、元外務省国際情報局長孫崎亨氏の「キッシンジャーをはじめ米国の指導者たちは、安保条約によってではなく、米国の利益になる場合に米国は日本を守ると繰り返し言明している。日米安保が日本を守るというのは幻想だ」(同紙5月7日)との見解を引用している。
安保条約5条による「日米共同防衛」しかし、安保条約5条には「各締約国(日米)は、日本国の施政権下にある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくすることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って、共通の危険に対処するよう行動することを宣言する」と規定されている。いわゆる「日米共同防衛」規定である。
この規定によれば、日本国の施政権下にある「尖閣諸島」を含む日本の領土・領海・領空が武力攻撃されれば、日米両国による反撃の対象になり得るのである。在日米軍基地も日本の施政権下にある限り日米両国による反撃の対象となり得るであろう。
軍事評論家の中には、安保条約5条の「自国の憲法上の規定及び手続に従って」を根拠に、米国は日本が仮に中国から「尖閣諸島」への武力攻撃を受けても、米中全面戦争を恐れて米軍を派遣しないとの説を唱える論者がいる。東シナ海の無人の孤島である「尖閣諸島」に対しては米国のそのような対応もあり得るであろう。
しかし、在日米軍基地がある沖縄を含む日本全土が中国から武力攻撃を受けた場合には尖閣諸島と同一視はできず、米軍の派遣は否定できない。なぜなら、在日米軍基地を含む同盟国日本への武力攻撃は、在日米軍の人命・戦闘機・艦船の喪失・軍事施設の破壊など米国の国益にも重大な影響を与えるからである。また、仮に米軍の派遣はないとしても、大規模で最大限の武器弾薬等の補給、監視衛星による偵察情報提供、軍事顧問団派遣などの軍事支援は十分にあり得ることである。
さらに、ロシアのウクライナ侵略、中国の軍拡・海洋進出・力による現状変更、北朝鮮の核ミサイル開発、緊迫する中東情勢など安全保障環境の悪化により、米国自身の安全保障や抑止力にとっても、戦後初めて反撃能力を保有し、防衛予算を倍増し、防衛力を強化する同盟国日本が有する安全保障上の重要性が増大したことは明らかである。
加えて、今回の岸田訪米による日米の同盟関係と安全保障関係の飛躍的な連携協力強化により、米国政府及び米国国民にとって、安保条約5条による「日本防衛」の必要性と重要性が格段に高められたことも明らかである。まさに、安保条約5条による「日米共同防衛」が日米両国にとって極めて重要な「国益」となったからである。