かつて入社後3年以内の離職率が50%以上であり、休職者の42%がうつ病などの精神疾患を罹患しているなどと報じられ、国会でも労働環境が問題視されたユニクロ運営会社のファーストリテイリング。新卒で同社に入社した社員の大半が就く店長の平均年収が500万円ほどだという点が一部で話題を呼んでいる。その労働内容・条件などと勘案すると「年収500万円」は妥当といえるのか。また、業務内容や労働環境はどのようなものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 国内に798店舗、海外に1697店舗の計2495店舗(2024年5月末)を展開するユニクロ。運営するファーストリテイリングの2024年8月期連結決算(見通し)は、売上高にあたる売上収益が3兆700億円(前期比11%増)、純利益が3650億円(同23%増)で最高益を更新を予想。連結の従業員数は約6万人(24年2月29日現在)に上る巨大企業だ。ちなみにアパレルチェーンの国内店舗数(ブランド別)としては「しまむら」の1415店舗が1位で、ユニクロは2位。同じくファストリが運営するジーユー(GU)は476店舗となっている。

 ファストリといえば、過去に従業員の労働問題が社会的に大きくクローズアップされたことがある。2013年に「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)が、新卒新入社員の3年以内の離職率が5割を超える年もあり、うつ病などの精神疾患にかかる社員が続出していると報道。社員は月間労働時間の最長限度について月80時間程度の残業を前提する240時間と定められており、サービス残業が蔓延しているとも伝えられた。同年には国会でもファストリの労働問題が取り上げられ、日本共産党は元社員の証言に基づき、残業代なしでの月330時間以上の労働、店長を労働基準法の「管理監督者」として残業代を支払わない行為などが常態化しているとして追及した。

 元ファストリ社員はいう。

「かつてのファストリは社風というか(同社会長兼社長の)柳井(正)さんの考え方として、『目標やタスクはいかなる理由があっても必ず達成する』ということが徹底されており、社内に『長時間残業=悪』という発想が存在しなかった。今の同社がどうなっているのかは分からないが、その後、柳井さんも効率重視で残業を好まないという考えになり、随分と社員の働き方も変わったと聞く。柳井さん本人も率先して朝7時前出社・16時退社を行い、店舗勤務以外の社員にも推奨している。もっとも、各店舗の労働実態については店長の働き方や考え方、能力によって大きく違いがあるとも聞く」

年収を最大で4割引き上げ

 多くの業界で人手不足と高度なスキルを持つ人材の獲得競争が激しくなるなか、ファストリも近年は給与水準の向上に取り組んでいる。昨年には国内従業員の年収を最大で4割引き上げ、新入社員の初任給を月25万5000円から30万円に、入社1~2年目の店長の給与を月29万円から月39万円に引き上げた。

「ユニクロの店長は大きく『店長』『スター店長』『スーパースター店長』にランクが分かれており、賞与を加えた年収としては『店長』が大半の20代は500万円ほどで、『スーパースター店長』になると1000万円を超えてくる。イメージとしては『スーパースター店長』は本部の部長クラスで、役員手前という感じだろう。給与水準が低い小売業界で20代前半の店長で年収500万円というのは、かなり恵まれているといっていい」(小売チェーン関係者)