「孫の顔も見れない」、親の無理解という苦痛

普通が叶わなかった氷河期世代。曽和氏は、氷河期世代の親世代にあたる高度成長期の状況について、次のように語る。

「高度成長期はとにかく人手が足りない時代でして、有効求人倍率も高く、成長期末期の1973年にはパートタイムを除くと1.76倍にまで上りました。つまり人材が希少価値になるので、給料も上がりやすいですし、役職などのポジションも得やすかったのです。それを象徴するかのように、高度成長期には部下を持たない名ばかりの役職が量産され、給与面でもキャリア面でも優遇されていました。

したがって、高度成長期を経験した世代からすると、氷河期世代のそもそも就職できない、人材として重宝されない、昇進できないといったといった現実は、感覚的に理解しがたい現象だったのではないでしょうか。また不景気であることが重なり、バブル期に見られた数億円規模の大きい仕事が受注できなくなり、成果を出しづらくなった環境に変貌したこともさらにギャップを増大させた要因でしょう。

そして就職氷河期の影響は、雇用のみならず、結婚やマイホームといった従来常識とされていた人生設計の部分まで波及します。氷河期世代は、就職も満足にいかなかった世代なので、当然未婚率も高くなりました。一昔前は『いつ頃結婚するんだ』『孫の顔を見せてくれ』としつこく聞かれることも少なくなく、精神的につらい思いをした人も多くいたはず」(同)

死ぬまで働かされる? 恐るべき未来予想図

氷河期世代の不幸はまだ終わらないという。

「氷河期世代の登場後に現れたミレニアル世代、Z世代は、デジタルネイティブ世代となるので、生まれたときからIT機器を扱うことが当たり前だった世代です。氷河期世代はここでも取り残されておりまして、深刻なデジタルデバイド(情報通信技術格差)が起きてしまいました。ミレニアル世代、Z世代は、ITイノベーションの波に乗り、若くして起業した方が多かったのですが、残念ながら氷河期世代からは、そのような人材はいまいち現れていないという印象です。

重ねて申し上げれば、ミレニアム世代以降は、若者の人口が減少し始めた時代になります。したがって人材の希少化が進み、高度成長期のように人材重宝の時代となりました。就活も売り手市場になり、就職率も徐々に回復したので、やはり氷河期世代だけがガランと取り残される形になってしまったのです」(同)

氷河期世代を「スキップされた世代」と言い表す曽和氏。70年代前半生まれの人ならば現在アラフィフだが、安心して老後も迎えられないそうだ。

「これからの時代は人手不足がさらに深刻化し、若者だけではなく、外国人人材を登用しようと政府は考えていますが、即座に問題が解消されることはありません。そこで白羽の矢が立ったのが、氷河期世代です。彼らは30代後半から50代前半となっており、まだまだ労働人口として数えられる年代なので、政府は最後の労働者マーケットとして捉えているのです。政府が必死に氷河期世代の雇用促進やリスキリング(新しく知識やスキルを学び直すこと)を強く求めるのはそのためでしょう。

しかも、氷河期世代の定年はさらに引き上げられ、年金給付時期も遅くなる可能性も否めません。死ぬ寸前まで働かせられる、というのは大げさですが、ハッピーリタイアなんて夢のまた夢という人が非常に多くなるでしょう。少なくともそれ以前の世代よりは働くことを求められるようになると思います。このように現状から、氷河期世代は最初から最後まで見捨てられた世代になる、本当の意味でのロストジェネレーションとなる可能性があると言えるのです」(同)

氷河期世代に本当の意味で安心が訪れる日は来るのだろうか。

(取材・文=A4studio、協力=曽和利光/人材研究所代表)

提供元・Business Journal

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