東京都や大阪府が大学を無償化するが、この問題についての経済学者の意見はほぼ一致している:大学教育の私的収益率は高いが、社会的には浪費なので、公的投資は正当化できない。本書はこういう理論・実証研究をまとめたもので、原題は『教育に反対する理由』。
「日本の大学はだめだ」というときは欧米の超一流大学が比較対象になっているが、欧米の多くの大学はカレッジ(日本の短大)であり、大部分の大学生は中学並みの知識も身につけていない。たとえば
地球が太陽の周りを回っていることを知っているアメリカの成人は約半分 原子が電子より大きいことを知っているのは32% 抗生物質ではウイルスが死なないことを知っているのは14% ビックバンを知っている人は実質ゼロこの程度の知識も身につかないカレッジに存在価値はなく、公的支援する意味はない(日本のFラン大学も同じ)。
教育投資で人的資本は蓄積されない大学の私的収益率は高く、生涯賃金は高卒より25%ぐらい多いが、その社会的収益率はマイナスである。大卒で高い所得を得られるのは教育で能力が上がるからではなく、学歴のシグナリング効果である。これは親が子供にアクセサリーを買ってやるのと同じなので、公的支援は正当化できない。
高校教育も(それに投じられる公費以上に)役に立つ証拠がない。小中学校は役に立つので、その外部性(誰もが字を読めるなど)を考えると公的投資は正当化できる。
先進国でも途上国でも、教育投資と成長率は無関係である。教育投資(縦軸)と成長率(横軸)にはまったく相関がない。多くの途上国では、子供は10代前半から働く。20代前半まで多くの子供が学校に行くのは、社会的には大きな労働力の損失である。
教育投資と成長率(Pritchett)
ほとんどのスキルは職場で身につけるので、学校教育は効率的ではないが、多くの人が子供への教育投資を増やしているので、世界中で学歴のインフレが拡大している。欧米では修士以上でないとエリートになれないが、学歴エリートの労働者としての能力は低い。