「言葉」の影響の大きさには驚かさせる。新約聖書「ヨハネによる福音書」の最初の書き出しを思い出す。「初めに言があった。すべてのものは、これによってできた」という有名な聖句だ。言葉は人を幸せにすると共に、人を殺すこともできる。言葉もデュアル・ユースだ。
ここにきて言葉の混乱が見られる。例えば、ジェンダーフリー運動は歴史的に軽視されてきた「女性の権利」の回復に貢献したが、同時に、ロゴスの破壊を生み出してきている。なぜならば、男性、女性といった性別に拘る一方、その性差を明確にする言葉、表現、その内容に対しては激しく拒絶反応を示しているからだ(「初めにジェンダーがあったのか?」2021年5月10日参考)。
IT技術が進み、言葉から成る多くの情報が氾濫している。そして多くの人がそれを共有できる時代に生きている。それは人類にとって至福の時といえるが、同時に、それをコントロールできない場合、殺人や淫乱や憎悪が拡散する世界になってしまう。
IT時代のシンボルでもある米メタ(旧フェイスブック)のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は先月31日、SNSでの子どもの性的虐待への規制を巡る上院司法委員会の公聴会で、被害者やその家族に陳謝した。そのシーンをニュースで見て、フェイスブックやインスタグラムなどで配信される無数の情報、画像が未成年者に大きな被害を与えている現実が改めて浮かび上がってくる。
21世紀に生きる私たちは分岐点に立たされている。科学技術の急速な発展で人間を取り巻く生活環境は改善され、通信技術の発展で世界中の人々が相互理解を深めることができる時代圏にいる。しかし、多くの人々は幸せではなく、苦悩している。それは単に経済的な理由からだけではない。私たちの「口から出てくる」言葉や感情表現が誤解を生みだし、カオスを生じさせているからだ。ロゴスは本来の意味を失い、フェイクニュースがまかり通っている。私たちは再度、「口に入れるもの」への注意だけではなく、「口から出るもの」への再考の時をもつべきではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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