技術革新によってコスト削減が可能ならば、その低下したコストが新たな適正コストになるのだから、実は、革新によるコスト削減幅と同じだけ、価値が低下しているはずである。そして、価値の低下は、必然的に、価格の低下をもたらす。

コスト削減のための技術革新が一般化していくなかで、それに追随できていない企業には、客観的に評価して、適正なコストよりも高いコスト、即ち、無駄が発生しているといえる。その無駄を削減することは、企業経営に要求される最低限のことで、それができない企業は淘汰される。こうして、経済全体として、無駄が淘汰によって解消されて、そこで生じた利益が新たな価値の創造に投資されることで、経済は成長するのである。

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新たな価値の創造のためには、人への投資が必要だとすれば、そこには、賃金水準を適正なものにすることで、結果的に賃金は引き上がるとの前提があるはずである。そして、この理屈を労働という商品以外に一般化すれば、全ての商品の生産において、コスト削減ではなく、コストの適正化を経済成長の基礎としたうえで、成長のためには、新たな価値創造のための投資が必要だということになる。

短期的なコスト削減に注力することで、新たな価値を創造するための中長期的な投資が疎かになれば、結局、成長余地を失うという大きな機会損失を発生させることになり、実は、コストは、削減されるどころか、機会損失の形態で、増加している可能性がある。要は、簡単にいえば、コスト削減と並行して売り上げも低下すれば、意味はないということである。