これまでの研究で、睡眠が記憶の強化に重要な役割を果たすことは明らかになっています。
しかし、複雑な文法や語順の学習に対して、睡眠がどのように作用するのかは十分に解明されていませんでした。
文法構造の理解には、単語やフレーズを正しい順序で結びつける高度なスキルが求められます。
たとえば、「主語・動詞・目的語」の順序を無意識に処理する能力もその一つです。
こうしたパターン認識や記憶の固定化には、睡眠中の脳が担う情報整理のプロセスが欠かせません。
では、睡眠中の脳では何が起こっているのでしょうか。
学習した内容を記憶として定着させるための鍵は、脳内で繰り広げられる徐波と睡眠紡錘波の連携にあります。
この連携がどのように働き、記憶を整理・強化しているのか、具体的に見ていきましょう。
カギは「徐波」と「睡眠紡錘波」の同期
新しい言語を効率的に記憶に定着させるカギは、睡眠中に起こる徐波と睡眠紡錘波の同期にあります。
今回の研究では、脳が睡眠中にどのように学習内容を整理し、記憶として固定化するのかが明らかになりました。
研究チームは、英語を母語とする35人の成人を対象に、Mini Pinyinという人工言語を用いて実験を行いました。
この言語は単語や文法構造がシンプルであり、学習効果を正確に測定するために設計されたものです。
参加者は学習後、最大8時間の睡眠機会を与えられたグループと睡眠を取らないグループに分けられ、その後、単語や文法ルールの記憶力がテストされました。
結果は明確でした。
睡眠を取ったグループは記憶力が大幅に向上し、特に語順 (主語-動詞-目的語) の習得に顕著な効果が確認されました。
これは、脳が一貫性や規則性を優先して処理する特性を持つためだと考えられます。
脳波の詳細な解析では、徐波と睡眠紡錘波が連携して発生する同期現象が観測されました。