独バーデン=ヴュルテンベルク州のカールスルーエにある独連邦憲法裁判所は15日、ショルツ政権が2021年末、新型コロナウイルスのパンデミック対策予算の未利用分を気候変動基金(KTF)に振り替える予算調整措置を実施したが、それは違憲に当たると判決を下した。
この結果、社会民主党(SPD=赤)、緑の党、そして自由民主党(FDP=黄色)の3党から成るショルツ政権(通称「信号機連立」)はKTFなどへの財政資金600億ユーロを失うことで財政危機に陥った。
連邦憲法裁判所の今回の判決は、野党第一党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が「政府の財政措置は将来、債務を急増させる契機ともなる」として提訴してきたことへの返答だ。問題は、ショルツ政権の顔の一つ、再生エネルギー政策を目指すKTFを継続していくためには、不足する資金をどこから調達するかだ。考えられる対策は、①増税するか、②他の分野の予算縮小だ。
予想されたことだが、KTFの財源探しではショルツ政権内で意見の対立が見られる。FDPのリントナー財務相はドイツの国民経済がリセッションにある現在、増税は景気を一層冷やす危険性があることで強く反対してきた。となれば、他の予算をカットして、その分をKTFの財源にあてる以外にないが、予算がカットされる他の省から強い反発が予想される。家庭児童手当の増額や様々な政府補助金を受けてきた部門への拠出停止が既に囁かれ出しているのだ。
SPD、緑の党、FDPの3党の連立政権が発足して任期4年の中間点を迎えているが、政権発足直後からドイツの政界で初の3党連立政権の誕生には「いつまで持つか」といった懸念の声が聞かれた。それなりの理由がある。簡単にいえば、政治信条で大きく異なる政党の寄せ集め政権であるからだ。SPDは社会福祉政策を重視し、緑の党は環境保護対策と再生エネルギーへの転換を、FDPは企業の自立性を重視、増税には反対し、規律ある財政政策を主張してきた、といった具合だ。
「時代の転換」(Zeitenwende)を標榜し、国防費を増額してウクライナを積極的に支援してきたショルツ政権としては国防費を削減するわけにはいかない。緑の党は再生エネルギーの推進を党の看板に掲げる以上、環境保護対策での予算カットは受け入れられない。ハベック副首相(緑の党出身)は既に「環境保護予算の削減は受け入れない。予定通りに政策を継続する」と表明している。
SPDと緑の党は、増税や新規融資、債務ブレーキの停止などを通じて支出計画のための新たな資金を調達したいと考えている。一方、FDPはこれまで債務ブレーキの停止には反対してきたが、リントナー財務相は23日、2023年の補正予算案を今月29日に閣議に提出すると発表した。これにより、連邦政府は今年新たな債務を大幅に増やす機会が得られると受け取られている。財務省からの情報によると、これには約450億ユーロの追加額が含まれており、主にエネルギー危機基金の支出を別の基準に置くことを目的としている。
ただ、ショルツ政権が基本法に根ざす債務ブレーキを2023年末まで再び停止することで財政危機を乗り越えることが出来るか否かは不明だ。連邦会計検査院は、カールスルーエの憲法裁判所の予算判決を受けて、今年と来年度の連邦予算は「憲法の観点から非常に問題がある」と考えている。ハベック副首相は23日、緑の党大会で、「債務のブレーキは柔軟に対応する必要がある」と述べ、リントナー財務相の債務ブレーキの停止を歓迎する一方、2024年以降も債務ブレーキの停止継続を求めている。
ところで、ショルツ政権の3党の中で今回の財政危機を最も深刻に受け止めているのはFDPだ。同党内には「連立政権発足後、わが党は全ての選挙で得票率を失ってきた。SPDと緑の党と政権を組んで最も損をしてきたのがFDPだ」という声が聞かれ出しているからだ。例えば、バイエルン州議会(10月8日実施)では得票率3%で州議会の議席を失ったばかりだ。