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経営者をサポートする士業と呼ばれる専門家がいます。難関資格を保有する専門家として尊敬を集める一方、同じ資格保有者でも仕事内容や方針、そして能力も当然異なります。

「士業は上位2割のプロ士業とそうでない代行業者的8割の士業に分かれており、プロ士業の活用は事業に様々な恩恵をもたらす」「活用のためには士業の特性を知った上で選ぶか育てるかの2択になる」

そう語るのは士業向けの経営コンサルタントで自身も士業(行政書士)である横須賀輝尚氏。同氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」から、プロ士業の見抜き方を再構成してお届けします。

プロ士業は「選ぶ」か「育てる」

士業は使い方次第。プロ士業を活用すれば、潤沢な資金調達も可能ですし、労務・法務問題に悩まされることもありません。しかしながら、現実的には、企業側から見れば士業が活用されているかといえば、そうでもないわけです。

では、具体的にプロ士業を活用するためには、どうしたらよいのか? それは、「見極めて選ぶ」か「育てる」の2択。どちらも選択肢としては正解です。前者は説明するまでもないでしょう。本物をどう探し、どう選ぶかどう見極めるか。一方で後者の「育てる」というのはどういうことかというと、才能のある士業を見抜き、あなたが育てて社外の戦力にするという選択です。

個人的には、これだけ才能の無駄遣いをしている人種もいないというくらい、彼ら彼女らは素晴らしいポテンシャルを秘めています。そもそも、基本的には難易度の高い国家試験を突破した人種。普通に考えて頭は良いのです(試験をスルーする方法もあるのですが、そのあたりは後述します)。しかし、本人たちすらその使い方をわかっておらず、自分で自分を育てきれていないのです。

両者のメリット・デメリットとしては、最初からプロ士業に依頼すると、それなりに高い報酬額がかかるという点。ただし、即効性があります。これに対して「育てる」選択肢を採れば、時間はかかりますが、ある程度報酬額を押さえて依頼することが可能になります。そして、何より自分好みに仕上げられるというのが最大のメリットでしょう。

プロ士業に出会えたらそのまま依頼するのも八卦。才能のある若手士業に出会えたら、育てて戦力化するのも八卦。人の縁に「絶対」はありませんので、この2択を覚えておいてください。

士業とは、どんな存在なのか?

では、具体的に士業の選び方…に行く前に、士業という人種を知っておきましょう。士業は「活用」次第です。効果的な活用のためには、彼ら彼女らの性格や適性を知っておいた方がより大きな効果を求めることができます。業界的にはあーだこーだ言われてしまう内容だと思いますが、事実なのでこの際ハッキリしちゃいましょう。

(1)プライドの高さは超一級 まずあなたも士業に対するイメージがあるはずです。そして、それはおおよそ想像どおり。基本的にはプライドが高い。これは間違いありません。中には本当に低姿勢の士業もいますが、心の奥底にはプライドを必ず持っています。ですから、士業に対して「上から目線」「命令口調」、こういったものは大嫌いです。まあ、ビジネスマナー的にも普通に考えてNGですが、より過敏に反応する人種だと考えておくと良いでしょう。付け加えて言うと、褒めると報酬以上に働くことがあります。ですから、基本的には「褒めて伸ばす」「プライドをくすぐる」こういった対応方法が吉です。

(2)リスクを非常に恐れる 独立開業することに、そもそも資格は必須ではありません。世の中、資格など持たずに独立して事業を起こす人の方がむしろ多数。では、なぜ士業という人種は資格を取るかと言うと、リスクを恐れているからです。もっとも、「恐れている」というのは単に怯えているということだけではなく、リスクに敏感という意味も孕んでます。もともと、経営者にとって法律を知るということは、リスクを回避する意味も強いですから、そういう意味では適性がある人が、士業の資格を持っている。そう思ってもらってもいいでしょう。

一般的に、士業から提案がないのは、このため。要は余計な提案をして、それによって顧問先企業に損害が出たら自分のせいになってしまう。だったら、無難に日常業務だけこなしていた方が良い。こういう判断をする士業は本当に多いものです。だから「相談したら」答えてくれるわけです。そもそも仕事をお願いすることを「依頼」というくらいですから、基本的には「待ち」の人種なんです。だから、あなたの方から積極的に口を出していく必要があります。

(3)成長意欲は非常に高い…けれども 士業はそれぞれの難関試験に合格しています。おそらく、あなたは試験の内容なんて見たこともないと思いますが、あなたの想像よりも遥かに難しいです。それこそ、ほとんどの士業が人生を賭けて受験しています。しかも試験に合格し、開業したら今度は法律の改正や新法施行、通達の確認、各種官公庁からの発表を毎日確認する日々が待っています。

言い換えれば、それだけ勤勉であり、成長意欲がある人たち。そういう人種なのです。とはいえ、全員がそうなのかといえば、これもまたそうではありません。特に一定の数値目標を達成した上で理念も目標も何もない場合は、勉強をやめて怠惰退廃している士業もいますので、そのあたりは要注意です。

(4)自己肯定感が低い 最初は自信がない。徐々に経験を積むことで、自信がつく。これはどの業界でも当たり前のことですが、士業は自信を持てても、自己肯定感が低い人が多く見受けられます。中には自信もあって自己肯定感も高い人もいるのですが、上位1割2割くらいを占めるであろう本物のプロ士業以外は、「このあたり」で悩んでいることが多いのです。

「このあたり」とはどういうことか?上位のプロ士業は、明確な理念と目標を持って邁進しています。それに対して、そこまでの境地にたどり着けない士業。つまり、「このあたり」とは、「仕事はそれなりにやっているが、今後の明確な目標が見つからず、とりあえず日常業務をこなしている」あたりです。つまり、プロ士業の一歩手前というところでしょうか。

士業の仕事はなかなか高度です。でも、その高度さは、経営者には届きません。例えば、税理士に依頼すれば、決算申告書はできあがる。一方、あなたが法人で、消費税課税事業者の場合、自分で申告をやってみるとしましょう、恐らくまず無理です。だから、理解されない仕事をしているわけです。しかも、ミス0がデファクト・スタンダード。1円のズレも許されないわけですから、本来相当なプレッシャー。なかなかこういった点を理解されないから、士業は自分の仕事が経営者に貢献できているのだろうかと悩むわけです。

それから、同業他社が基本的に同じ仕事をしているというのも、自己肯定感が低い原因です。自分の事務所が仮に潰れても、ほかの事務所に依頼すれば、企業になんら問題は起きない。まあ、このあたりは実力の研鑽不足ということもあるのですが、自分の仕事が世の中にとって必要なのか?と聞かれると、強く言い返せない。そういう状況なのです。

と、いうことはこれらをまとめると、士業に依頼する場合は、「あなたじゃなきゃできない」「大変な仕事をされていて頭が下がる」などの、肯定感のある言葉で接することがポイントになります。これは士業には本当に秘密にしておいてください。核心を突き過ぎていますので。