「わたしたちは家族です」 三人以上で愛し合う人たちや、友人として愛し合う人たちもまた、こんな風に言うかもしれない。これに対して、法律はどのように応えるべきだろうか。 (中 略) 自分にとって家族とは誰なのか。家族とはどういうものなのか。これについては、個々人の好きにさせてしまおう。法はこれに関わらなくていい。
松田和樹(早稲田大学助手)「愛のために『結婚制度』はもう廃止したほうがいい」 現代ビジネス、2022年2月11日
……あのぅ、かなーり有名な思想家なんですけど、大杉栄とかってご存じですか? と耳元で囁きたくなってしまいますね(実際にこちらで論じました。端的に知りたい方はWikipedia を)。
上記の引用の行間から漂う、「同性婚を可能にしよう」より「もう結婚自体を廃止しよう」の方がもっとラディカルで俺すごくねドヤァ感に表れているとおり、脳内だけで作り上げた未来を建築のコンペのように披露しあう競争は、限界ギリギリを目指すチキンレースになりがちです。
昨年、LGBT法の制定に際してすっかり有名になった「トランスジェンダー女性、私は女子トイレ使用もOK!」「私なんて女湯使用もOK!」は典型でした。チキンレースって基本的には肝試しで、度胸を示して周囲にマウントを取るのが目的ですから、問題の当事者ですらない人(この場合は「シスジェンダー男性」)がなぜかドヤ顔で入ってきたり、中身を吟味しないまま振り切れた主張に賭金を張る人も出てきます。
もし、顧みられなくなって久しい歴史にまだ意味があるとしたら、そうした「議論のチキンレース化」を抑える重石になることでしょう。
今回は雑誌の中で示した文献の他にも、以下のような(主に女性史の)研究を参照しつつ、「ダイバーシティの基礎になる日本史」の概略を寄稿しました。おそらく1冊も読まずにTwitter(X)でイキってるニセモノではなく、ホンモノの歴史認識を踏まえた議論が始まることを願っています。
・加藤秀治郎『日本の選挙』中公新書 ・渡辺浩『明治革命・性・文明』東京大学出版会 ・A. ゴードン『日本の200年』みすず書房 ・J. ハンター『日本の工業化と女性労働』有斐閣 ・三宅義子編『日本社会とジェンダー』明石書店 ・駒込武『植民地帝国日本の文化統合』岩波書店 ・『鶴見俊輔集3 記号論集』筑摩書房
『Wedge』論考の中での参照順です
※1 フェミニズム絡みのネット炎上の背景にも、多くはこうした研究業界内の「断絶」が関わっています。さる有名な事件に関するこちらのチャート図は、おおむね正確だと思います。
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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