経営破綻or自主再建のシナリオを検証

 前述のとおり同社は今月、銀行団から借入金90億円の借り換えに応じない旨を伝えられており、現在の銀行借入残高は数百億円前後とみられていることから、販売が低迷すれば資金繰りが行き詰まる懸念も指摘されている。早急な支出削減の必要性に迫られるなか、社員に高額な給与を支払っている余裕はないように思われるが、経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「高額な給与を払い続ける理由は、現時点で経営陣が『ビッグモーターは経営再建可能だ』と判断しているからだと思われます。中古車市場で15%と最大のシェアを持ち、全国に300店舗を抱える巨大企業ですから経営再建にあたっては社員の力が絶対に必要です。一方で、日本全体で人手不足が問題になっています。まだ若い社員を中心に同業他社に転職する従業員も今後は増えていくと思われます。ここでポイントとしては、今の状態ではビッグモーターは新規で採用をするのが非常に難しいということです。そのため全力で今いる従業員を引き留めなければならない。そのためには、まず社員の動揺を抑えることから始める必要があります。ビッグモーターによれば7月は売上が半減したということですが、来年1月まで歩合給を据え置くという通達をしたというのは、社員の退社の流れができないように先回りして手を打ったということでしょう」

 気になるのはビッグモーターの今後の行く末だ。不祥事の影響で中古車の販売・買い取りが以前より大幅に減ってはいるものの、実は直近7月の経常利益は黒字を維持しており(16日付日刊自動車新聞記事より)、数百億円程度の現預金や流動資産を有しているとみられる(14日付日本経済新聞より)。

「報道によればコンサル大手のデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーが経営再建のために雇われたといいます。コンサルの立場で見ればビッグモーターを再建させるオプションは、まだかなり幅広く存在しています。まず注目すべきは、ビジネスが半減したとはいえ半分残っているという点です。ビッグモーターは業界シェア15%のトップ企業なので、中古車在庫を非常に多く抱えています。その中古車は今、消費者からの人気が高まっています。中古車というものは一つひとつが世の中にそれしか存在しない商品です。企業の体質や整備の不正を消費者は気にしている一方で、欲しい車がいい状態で在庫になっていて、手ごろな予算の範囲内で手に入るのであれば消費者は購入するでしょう。同様に中古車の売り手にとっても、きちんと買ってもらえるのであれば高値で買ってくれる会社を選びます。その特性があるためビッグモーターは不祥事があってもビジネスが半分残っているわけです。

 とはいえ、いずれビジネス規模が半減したことを前提にさまざまなコストカットをしていかなければならないのですが、安易に給与等に手をつけると従業員の間に不安が伝播して自滅することもあり得ます。企業再建についてのノウハウを持つコンサルを起用したというのは、その意味でも正しい打ち手だと思います。

 銀行が今回、90億円の借り換えを拒否したとはいえ、基本的には600億円を融資した企業ですから銀行もビッグモーターの倒産を望んではいません。当面は手持ちの300億円以上の資金を使って自力で経営再建計画を検討させ、その様子をみながら今後の取引スタンスを固める腹だと思われます。

 コンサルとしてデロイトが今後、どのような戦略を提言していくかはまだわかりませんが、一番価値が高い形で再建したいのであれば、比較的早い段階で経営陣や幹部陣を一新する形で競合他社の傘下に入るという選択が良いのではないでしょうか。競合他社から見ても、中古車販売に新規に参入しようと考える流通企業にとっても、全国にこれだけの店舗網を持つ企業が手に入るというのはチャンスです。経営層が入れ替わり、企業ブランドもリニューアルすれば、数年かけて高収益企業に再生することは十分に可能です。シナリオとしては、今後半年間、コンサルの指導を仰ぎ自力再建を模索しながら、最終的には他社からの資本提携ないしは買収を決断し、そのタイミングでブランドを変えて生き残りを図っていくというシナリオが一番有力なのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

提供元・Business Journal

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