このような状況で果たして市販のシップを買う人がいるでしょうか? いるわけがありません。
それでいてシップは海外では使われない日本独自の物であり、あまり強いエビデンスもないとされています。(参考文献:シップは世界のどこでも手に入るわけではない・・・)
つまり効果の不確かな薬剤を高齢者のお気持ちに応えるために9割を他人のお金でどんどんとばら撒いている状態です。これがモラルハザードでなくてなんなのでしょうか。
処方する医師が悪い、止めない薬剤師が悪い。そう思われる方も多いでしょう。実際これら医療専門職は”悪い”です。しかし悪いとわかっていても売上が上がるならそれをしない理由はありません。
ですから一律3割化によって、患者側から「そんなにお金がかかるならもういらない」と言ってもらう他ないのです。
また、これらのいわば過剰受診・処方は昨今話題の薬不足の原因ともなっています。ただしこれは単純に過剰に処方される→薬が足りなくなるという構図ではありません。現にシップ薬が入手困難となったことは今までありません。
ではなぜ薬不足が起きるかというと、過剰受診により診察代、つまり病院での医療費が増えます。すると国は医療費の総額の伸びを防ぐため薬価を下げて調整してきました。しかしその薬価が医薬品の製造原価に比べてギリギリの価格となり、製薬会社(主にジェネリックメーカー)の利益が出なくなります。すると需要が増えても生産数を上げず供給が滞ります。そして悪い場合には品質検査を誤魔化すなどの不正をして製品を出荷し、それが明るみに出ることで出荷停止などの措置が取られます。
薬不足は複数の要因が絡み合って起きている現象であり、その原因の全てが1割負担による過剰受診のせいというわけではありません。しかし、安すぎる自己負担は回り回って患者本人にも不利益をもたらしている可能性もあるのです。
以上が簡単ではありますが、薬局薬剤師から見た医療費窓口負担一律3割をすべき理由です。
繰り返しますがモラルハザードはモラルでは止めることができません。なんらかの形で負担をかけることで初めて抑制することができます。皆様にもご一考いただけますと幸いです。
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三田 才 薬局薬剤師 内科クリニックの門前薬局 薬局薬剤師として10年ほどの勤務経験。その中で現在の医療の問題点の多くが自己負担額の少なさに起因すると感じています。
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