私は、現在小さな開業医の門前薬局で薬局長として勤務しています。
患者として来られる方の中の少なくない割合の方が2割負担あるいは1割負担の高齢者であり、そのような方々に薬局の売上は大きく支えられています。つまりそれらの方々が一律に3割負担となれば、売り上げ減や理不尽なクレームといった苦境に立たされることは容易に想像できます。
しかしそれでも、私は医療費窓口負担一律3割に賛成します。
なぜなら、1割2割といった格安の負担割合によって引き起こされるモラルハザードを日々見ているからです。
まず、わかりやすいのはジェネリック医薬品の使用についてです。若い方はジェネリック医薬品についての理解をある程度されているのと、負担額の差が大きいことで多くの方がジェネリック医薬品を選ばれます。
しかし、自己負担割合の低い方は「ほとんど値段変わらないね。じゃあ先発で」と言われる方が多いです。自己負担が低くとも本来の薬の値段である薬価は変わらないので、その残りの金額の請求は全て保険にいくわけですが、その点を気にされる方はごく少数です。「せっかくだから高い方で」と言われる方すらいるほどです(余談ですが、この観点から生活保護、小児、障害者なども自己負担額を0とするのは問題があると考えます)。
このように自己負担額が低ければ、より高価なものを望んでしまうのは人間の自然な感情です。これを道徳や心構えで抑えることは難しく、価格差をはっきりつけて選択していただくしかないと思います。
次に、シップの問題があります。高齢者の中には非常にシップの好きな方がおられます。現在シップ類は1回の処方で63枚までという制限がかけられていますが、病院を受診する回数は決められていません(日本の医療はフリーアクセスです)。
そうすると何が起きるか。単純に受診の回数が増えます。本来ならば月に1回の受診でよいところ(安定していればそれですら過剰だとは思いますが)2週間ごとの受診として、その都度63枚ずつのシップをもらう。あるいは月初めは整形外科でシップをもらい、月終わりには内科でも同じものを頼んでやはりそれぞれから63枚ずつをもらう。そうして過剰にもらったシップを体中に貼っている高齢者は一人や二人ではありません。
また、別のパターンもあります。特に痛いところはないものの、受診のたびにとりあえずシップをお願いする。そうして溜め込んだシップを家族、親戚、近所の人にまで配り歩いていいことをした気になる(処方薬を他人に譲渡するのは危険なのでおやめください)。配り先がなくなって押し入れに軟百枚とシップを溜め込んでいる人もいます。
これらの現象も自己負担額の安さから来ています。市販でロキソニンテープを買おうとすれば21枚でおおよそ2100円、1枚当たりでは100円ほどとなります。しかし医療用であれば薬価が1枚あたり14.3円ですので、調剤基本料などもろもろ含めても自己負担額は200円にも満たないでしょう。ましていつもの薬に追加で”ついでに”出してもらえばその負担額は数十円で収まります。