「① 日鉄は年度内に次期経営計画を発表したかった ②対象企業の経営状況を考えると、急いだほうがいい ③その結果、早急な決定が求められていたのかもしれない」とも、指摘してきました。USスチールは業績不振ですから、経営陣や株主にとっては、日鉄の買収案は企業救済策に映り、渡りに船のようだったのかもしれません。「政治的な影響を十分に考えずに、USスチールの誘いに乗ってしまったか」とも。
日鉄副会長らの「政治の介入を好ましくない」と、日本側の多くは考えています。日経新聞は「日米鉄鋼再編を政治化するな」(社説、3月16日)と書きました。「政治が正当な理由もなく民間企業の経営に介入してはならない。買収や合併で市場が寡占化し、競争が妨げられたり、安全保障上の危うさが生じたりする場合に限られる」とも指摘しました。
いかようにでも解釈できる「正当な理由」などという表現は、社説では使うべきではありません。そうあってほしいという「主張」と、現実はそうでなくなっているという「事実」を混同してはいけない時代です。USスチール買収はその象徴的な案件です。USスチールの本社がある州(ペンシルバニア州)はベルト(錆びついた工業地帯)であり、大統領選で民主、共和党が争う激戦州でした。
そうした選挙対策に加え、「再びアメリカを偉大な国に」(トランプ氏のスローガン)と言っている時に、米国の歴史的な象徴が外国資本の手にわたることは座視できない。
日本の各紙は、バイデン、トランプ両氏の言動を細大漏らさずに報道しています。chatGPTに米国における報道ぶりを質問すると、「控えめに報じられ、日常的なニュースにすぎない」との回答です。ほかに報道すべき重要なニュースがたくさんあるのでしょう。
日本では、国内最大鉄鋼メーカーとUSスチールという組み合わせ、政治的要因が色濃く絡みだした対米投資の行方、バイデン対トランプの闘い、国内の低迷が続く日本経済、産業の再生策としての外国企業の買収などという視点、論点があり、ニュース性は極めて高いのです。