人の前に立つ者の性か、エリザベス1世は自分の外見を気にしており、少しでも気にくわない肖像画はすべて破り捨てるほどでした。

そんな彼女が全身にできた瘢痕に耐えられるはずもありません。

これを機にエリザベス1世は、過剰なメイクアップをするようになります。

当時にはすでに「ヴェネチアン・セルーズ(Venetian Ceruse)」と呼ばれる人気の化粧品がありました。

品質の高さからヨーロッパの上流貴族がこぞって愛用した美白化粧品で、皮膚の傷跡を隠すためにも使われたそうです。

エリザベス1世はこれを顔に厚く塗ることで、瘢痕を隠し、色白の肌を手に入れました。

さらに彼女は、唇に鉱物からなる染料を使って、真っ赤な紅を引くようになります。

こうしてエリザベス1世は、後世に伝わる象徴的なルックを完成させました。

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エリザベス1世の肖像画/Credit: ja.wikipedia

以来、彼女の肖像画の多くは、白塗りされた顔と赤い口紅が描かれるようになります。

しかしこのメイクアップは女王に美しさを取り戻させたと同時に、衰弱させる原因ともなったのです。

女王を衰弱させた「化粧品」の成分とは?

ヴェネチアン・セルーズは、顔の美白にとても有効な化粧品でしたが、原料に「鉛白(えんぱく)」という白色顔料が使われていました。

鉛白は今では有毒な化学物質であることが知られており、鉛中毒を起こして、抜け毛や肌の劣化を招きます。

ヴェネチアン・セルーズを愛用したエリザベス1世も、この症状に悩まされることになりました。

※ ちなみに、日本で古くから重宝された「白粉(おしろい)」にも鉛白が使用されていました。

こちらも鉛中毒が問題になり、明治に入って、無鉛白粉が発明されるとともに、1900(明治33)年には鉛白粉が使用禁止となっています。

また、口紅の染料には辰砂(しんしゃ)が使われており、これはよく知られている通り毒性の高い「水銀」を主成分とする鉱物です。