この他に、計画通りに稼働できなかった理由として、次の3つを挙げている。
① 運用遅延とコスト超過 プロジェクトの初期段階で技術的問題やインフラ整備の遅れが生じ、運用開始が予定よりも遅れた。これによりコストが大幅に超過した。プロジェクト全体の費用は約540億ドルに達しており、収益性への影響が懸念されている。
② 規制上の問題 西オーストラリア州政府との間で交わした契約には、このプロジェクトが達成すべきCO2の削減目標が明確に定められている。2021年には、シェブロンが目標未達成を認め、約2億3,000万ドル相当の炭素クレジットを購入する義務を負うこととなった。今回も貯留目標を達成できなかったため、シェブロンは相当する補償措置を求められる。
③ 環境への影響の懸念 地下に貯留されたCO2が長期的に安定して閉じ込められる保証が必要だが、CO2の漏出リスクがゼロではない。ゴーゴンLNGプロジェクトの拠点であるバロー島は、環境保護区に指定されているため、周辺の生態系への潜在的な影響も懸念されている。
ゴーゴンCCSプロジェクトの教訓CCSプロジェクトの象徴的な存在であるゴーゴンCCS事業から学ぶこととして、以下の事項があるように思える。
① 計画と現実のギャップ 世界最大規模のCCSプロジェクトとして注目されたものの、目標未達成やコスト超過により、CCS技術の実用性や信頼性に疑問が投げかけられている。
② 技術的課題への対応 貯留層の圧力上昇や注入井戸の問題は、他のCCSプロジェクトにとっても重要な教訓となる。今後、より詳細な地質調査や貯留技術の改良が求められる。
③ 規制・政策の枠組み 政府との契約に基づき補償措置が実施されたことは、CCSプロジェクトにおける透明性や責任を示す重要な事例となった。今後は、プロジェクト計画段階でより現実的な目標設定と規制枠組みの強化が必要となる。
まとめゴーゴンCCSプロジェクトはCCS技術の可能性と限界を示す象徴的な事例であるが、技術的課題やコスト、規制対応など容易には解決できない多くの課題を内包している。これらの課題は実証試験段階の日本のCCSについても該当する。これを一つのマイルストーンと捉え、先の見えない将来に向けて闇雲に前進するのではなく、リスクとベネフィットを比較考量して、取るべき方向を決める必要があるのではなかろうか。