彼らが棲息する水深7902メートルというのは「ヘイダル・ゾーン」という領域にあたります。
海の世界はその深さに応じて、次のように区分けされるのが一般的です。
・有光層(エピペラジック・ゾーン):水深0〜200メートル
・中深層(メソペラジック・ゾーン):水深200〜1000メートル
・漸深層(バシペラジック・ゾーン):水深1000〜3000メートル
・深海帯(アビサル・ゾーン):水深3000〜6000メートル
・超深海帯(ヘイダル・ゾーン):水深6000メートル以上
捕獲された生物のいるヘイダル・ゾーンは海の中で最も深い領域であり、光のまったく差さない暗闇の世界となっています。
ヘイダル・ゾーンという呼び名も、そこが冥界のような場所であることから、ギリシャ神話に登場する冥府の神・ハデスにちなんだものです。
さらにチームが形態調査およびDNA分析を行った結果、この生物は甲殻類の一グループである「テンロウヨコエビ科(Eusiridae)」に属するものの、それ以上は過去に記録がなかったことから、新属新種の生物であると断定されました。
チームは本種が冥界のような暗い世界に住んでいることを踏まえ、南米のアンデス地方で「闇」を意味する言葉を取り入れた「ドゥルシベラ・カマンチャカ(Dulcibella camanchaca)」と命名しています。
また研究者らは、本種の形態や棲息環境から、この生物がヘイダル・ゾーンでは珍しい「ハンター」であることを突き止めました。
ヘイダル・ゾーンでは「ハンター」が珍しい
そもそもヘイダル・ゾーンのような深海において、捕食生物はとても珍しい存在です。
水深8000メートル級にもなると、光はまったく差さず、水圧は海面の約800倍もある上に、水温はほぼ凍結点近くにあります。
こうした状態では一般的な食物連鎖が成り立たず、ヘイダル・ゾーンに暮らすのは上から降り落ちてくるデトリタス(有機物の粒子)を栄養源として利用する小さな生物がほとんどです。