黒坂岳央です。

筆者は家族経営の企業、ベンチャーから東証一部上場企業まで幅広い会社で働いてきた。キャリアの中で今なら完全にパワハラに抵触するようなキツイ指導を幾度となく受けた経験がある。だが、その時は辛くてもおかげで随分と成長させてもらったと思っており、当時の上司には心から感謝をしている。

最近、知人の社長から言われた話で記憶に残ったものがある。それは「上司がパワハラを恐れて部下を叱れず、部下は失敗しても何も言われないことに戸惑いを感じており対応に困っている」というものだった。

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パワハラに抵触しない指導の難しさ

部下がとんでもないミスをやらかしたとなれば、上司の立場からすると文句の一つも言いたくなるだろう。筆者は声を荒げて叱ることはしない質だが、感情を持った人間である以上、誰しも瞬間的にそういう気持ちになることはよく理解できる。

だが「絶対にパワハラに抵触しないで部下を成長へと導く指導をする」というのは想像以上に難しい。「ではお手本を見せてください」と言われて完璧にできる人は相当少ないのではないだろうか。

部下からの逆襲を恐れてヘラヘラ笑って「次は気を付けてね」といえばパワハラにはならなくとも、相手には全く響かない。かといって「なぜそんなことになったんだ」と少し語気を強めると、相手は萎縮してもうパワハラ認定される。これでは部下の指導はかなり難しいだろう。上司といえども神様ではなく、普通の人間に過ぎないのだ。

正直、今の時代に上司になる人はかなり大変だろうと気の毒に思う。筆者はパワハラ行為をされてきたが、自分からしたことが一度もないし、相手の心を痛めつけるパワハラは憎むべき行為であると思う。だが瞬間的に感情が出るのさえNGとなるなら、もはや誰も管理職のなり手がいなくなってしまうだろう。そうなれば企業の労働生産性にも影響してしまう。

過剰なパワハラ取り締まりの末路

このままパワハラ行為の取り締まりの強度が高まっていくとどうなるだろうか?それは考えたくもない恐ろしい未来である。結論、上司は部下を「戦略的放置」をする(「完全放置」ではない)。