東京・小平市の塗装会社「エムエー建装」の社長と従業員4人が、元同社社員の高野修さん(当時56)を線路の踏切内に行くように仕向けて自殺に見せかけて殺害したとして、今月8日に逮捕された事件。容疑者たちによる高野さんへの日常的な暴行や「いじめ」が世間を震撼させているが、この塗装会社が会社HP上で自社について「社員同士仲が良い、アットホームな雰囲気」「協力し合いながら働くことでチームワークの良さが仕事の質に反映されています」などとPRしていたことから、求人募集などでこうした内容を謳う企業には注意すべきなのではないかといった声もあがっている。

 警視庁は8日、エムエー建装の代表、佐々木学容疑者(39)、従業員の島畑明仁、野崎俊太、岩出篤哉の3容疑者を殺人などの疑いで逮捕した。事件が起きたのは昨年12月2日夜~3日午前0時ごろ。高野さんは東京・板橋区の東武東上線の踏切で電車と衝突して死亡。当初は自殺とみられたが、高野さんが容疑者の車を降りて踏切内に入っていく様子を収めた防犯カメラの映像などから、警視庁は捜査を継続。

 容疑者らのスマホに残された動画からは、以前から高野さんが容疑者らから暴行やいじめを受けていたことがわかっており、事件当日は容疑者らは夜10時ごろに高野さんの自宅アパートを訪問して1時間以上滞在した後に、高野さんを車に乗せて荒川にかかる橋に連れて行ったとみられ、NHKなどの報道によれば、容疑者のスマホに「川は嫌だけど、踏切に行きたいんだって」という音声が残っていたという。その後、容疑者らは高野さんを板橋区の踏切に連れて行き、高野さんが電車にはねられた後に事件現場を去っていた。

 高野さんは2014年頃にエムエー建装に入社して20年に退職し、21年に同社へ再入社して昨年10月に再び退職。退職後は生活保護を受給したり警備員の仕事をしていた。同社は高野さんの在職中、会社が借りたアパートの家賃分を差し引いた給料を高野さんに支払い、給料を現金で支払わずに食料だけを現物支給することもあったという。

 職場のいじめに詳しい産業医はいう。

「中小企業に限らず、大企業も結局は社員は小さな部署単位で働くことになるので、その部署内でいじめの対象になるというケースは珍しくはありません。ただ、日常的に暴力を振るったり、深夜に複数人の社員が自宅を訪問して連れ出すというのは異常であり、いじめの範疇を通り越して犯罪行為です。もし仮に入社した会社がそのような職場だと分かったら、身を守るために極力早く辞めて離れることを考えるべきです。しかも今回被害に遭われた方は、すでに会社を退職していたということなので、容疑者たちは被害者の方の同僚でもなんでもないわけで、合意を得ずに自宅に押し掛けて中に入った上に外に連れ出していたのだとすれば、立派な不法侵入であり監禁です。

 職場での暴力は一人で解決することには限界があるため、映像やLINEの履歴など証拠を保全して、警察や弁護士などに相談すべきです。そして、そのような会社や同僚とは完全に関係を断ち切るという強い意志を持つことも重要です」

バーベキューを楽しむ社員をサイトにのせている会社は要注意?

 そんな「エムエー建装」だが、会社のHPには前述のとおり「社員同士仲が良い、アットホームな雰囲気」という文言とともに、社員同士が笑顔で肩を組み合うイメージ写真なども掲載されている。

「『会社のHPや求人募集ページに社員がバーベキューを楽しむ社員をのせている会社は要注意』『社員の仲が良い点やアットホームな雰囲気をアピールする会社は避けたほうがよい』とよくいわれますが、本当に社員同士の仲が良い会社もあるので、一概に避けるべきとはいえません。たとえば社員数が10~20人くらいで残業が多くてノルマがきつい営業主体の会社であっても、その会社の残っている社員にとっては良い環境で仲が良いというケースもあり、そういう環境に向かない人にとっては『ブラック企業』ということになります。今回事件を起こした会社も、被害者の方以外の社員は本当に仲が良くてアットホームだった可能性もあるかもしれません。逆に社員同士の関係が濃くなくても、業績も社員の待遇も良い会社というのもあるので、会社選びにおいて『社員同士の仲が良いか』『アットホームな雰囲気かどうか』を重視しすぎると、失敗しかねません。特に社員数が10人以下の小さい会社の場合、そこで働く人たちのキャラクターには共通の特徴・傾向があるかもしれず、面接などを通じて『ここの人たちとは、いまいち肌が合わない』と感じれば避けたほうがよいでしょう。

 それよりも、しっかりと柱となる事業を持っているか、業務内容が自分のスキルややりたいこととマッチするか、法定時間外労働に対する時間外割増賃金率がしっかり守られているかなど、より具体的な事項をチェックすべきです。たとえば、固定残業代は原則として45時間が上限と考えるのが妥当となっていますが、見込み残業が60時間などとなっていれば『ちょっとこの会社はコンプラが緩い』と考えるべきでしょう」