生物学者の目を持つと、この単純な事実からでも多くのことがわかります。
それをまとめたのが上の図になります。
ドラクエ世界のスライムは独立した目と口を備えるだけでなく、跳ね回るための筋肉、鳴き声を上げるための声帯、そしてそれらを制御する神経系あるいはそれに類するシステムが存在していると考えられます。
スライムを巡る議論に「彼らが単細胞生物であるか多細胞生物であるか」というものがありますが、このような複数種類の異なる組織(目、筋肉、神経など)を持つ動物というのは、ほとんどの場合、多細胞生物であると考えられます。
上の図に示すように、単細胞生物のゾウリムシにも、眼点と呼ばれる目に類似した部位や、細胞口と呼ばれる口腔を思わせる穴が開いているのが知られています。
しかしスライムの目は作品によっては人間の目のようにクルクル目玉部分が動く様子が描かれており「眼球」の存在が伺えます。
ゾウリムシの眼点が比較的単純な光の検知を行うのに対して、眼球は網膜に物体の形を投影することで、物の形や色を認識できるようになります。
スライムが光の明暗を感じ取る眼点ではなく眼球を持っているのも、地上生活を行う上でより高性能な眼球のほうが有利だったからでしょう。
またゾウリムシの細胞口は基本的には大きさを変えられませんが、スライムの口は大きく開閉させることが可能です。
スライムの口の周りには他の陸上動物と同じように形を制御するための筋肉組織が存在しているからでしょう。
また発声には筋組織や弾性組織を備えた器官(喉や声帯)およびそれを振動させるための呼吸様システム、つまり気体を通す気管に類する構造が必要です。
この点から、スライムは外観こそ簡素なゼラチン質生物のように見えますが、口の奥には意外と複雑な構造(空気を溜める気嚢的な空間、筋肉で制御される弁構造、音を増幅する共鳴腔など)が隠されているかもしれません。