米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳、水原一平氏が違法賭博を行っていたとして球団から解雇された問題で、NHK『ニュース7』とテレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』が相次いで誤報を伝えたことが問題視されている。報道・情報番組のなかで信頼性が高いとされる2番組で、なぜ誤報が報じたのか。専門家の見解を交え追ってみたい。

 水原氏は賭博でつくった450万ドルの借金を返済するため、大谷のパソコンにログインして大谷の銀行口座から勝手に違法ブックメーカーに送金していたとされる。すでに米メジャーリーグベースボール(MLB)が正式な調査に着手しており、米国の内国歳入庁(IRS)、米国土安全保障捜査局(HSI)も捜査を開始。大谷の代理人も米国の捜査当局に刑事告訴しているため、真相の解明はこれらの調査を待つのみとなってる。

 水原氏は解雇直後から行方が不明となっているなか、連日メディアでは最新情報が伝えられているが、3月末と4月初めにNHKとテレビ朝日が相次いで誤報を伝えた。米紙ロサンゼルス(LA)タイムズの報道の内容をきちんと確認していなかったという単純なミスによるものだが、1社だけならまだしも、なぜ誤報の連鎖が起きてしまったのだろうか。日本テレビなどで長年にわたりドキュメンタリー制作に携わった経験を持つ、ジャーナリストで上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏にその背景を解説してもらった。

あまりに初歩的で恥ずかしいNHK『ニュース7』

 これはテレビの記者をはじめとする制作者にとってあまりに初歩的で恥ずかしいミスです。まずはNHKですが、3月30日(土)夕方の『NHKニュース7』で次のようにアナウンサーが原稿を読みました。

「大谷選手の元通訳、水原一平氏が違法賭博にかかわっていたとされる問題で新たな動きです。アメリカのメディアは、捜査を担当する検事が『捜査は違法なスポーツ賭博組織に対するもので、ブックメーカー側への送金は連邦捜査機関が扱う犯罪に該当しないという見解を示した』と報じました。大谷選手の口座から違法なブックメーカー側に少なくとも450万ドルが送金されていたと報じられている水原氏の違法賭博疑惑。LAタイムズは28日付けの記事で、捜査を担当する検事が大谷選手の弁護士に対し、違法なブックメーカーへの送金は連邦捜査機関が扱う犯罪に該当しないという見解を裁判所を通じて示した、と報じました。検事は『捜査は違法なスポーツ賭博組織に対するものだ』と文書で述べているということで、記事は『国の捜査機関が大谷選手に捜査の対象ではないことを保証したものだ』と伝えています。一方、大谷選手側は、水原氏が口座に勝手にアクセスして送金したとして、窃盗と詐欺の罪にあたるとしていますが、これについて関係機関が捜査を行っているかは明らかになっていません」

 アナウンサーが読む原稿に合わせて、LAタイムズのデジタル版が映ったPC画面が流されていました。LAタイムズは大谷選手が所属するドジャースの地元の新聞社で、今回の違法賭博問題で先鞭をつけて報道を行った信頼性が高い報道機関です。そのLAタイムズが、米国の捜査当局者が今後どのような捜査をするかを話した内容を報じたのなら、日本のメディアが全国ニュースで伝える価値があります。ところがLAタイムズの記事には大谷選手の顔写真が掲載されていたものの、記事の大半は大谷選手ではないドジャースの元選手の賭博疑惑に関するものでした。NHKの記者はよく記事を読まないままに原稿を書いてしまったのかもしれません。英語を読めない人がこうした記事の執筆を担当するとは考えにくいですが、ひょっとすると大谷選手の顔写真が掲載されていたので早合点してしまったのかもしれません。

 いずれにしても、NHKの全国ニュースという信頼性が高い番組でこのような事態が起きるとは、ちょっと信じられません。それくらい大きなミスです。デスクもきちんとチェックしなかったのだと思います。あまりにもずさんです。公共メディアを標榜しているNHKとしては、とても恥ずかしい出来事です。