ハマスが昨年10月7日、イスラエルに奇襲テロを行い、1200人余りのイスラエル国民が虐殺されて以来、イスラエル軍とハマスの戦闘でこれまで3万5000人以上が犠牲となったが、大多数はハマスの盾となってきたパレスチナ住民だ。国際司法裁判所(ICJ)はイスラエル軍の攻撃を犯罪行為と批判、国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)のカーン主任検察官は20日、戦争犯罪や人道に対する罪などの疑いで、イスラエルのネタニヤフ首相やイスラム組織ハマス指導者らの逮捕状を請求したばかりだ。

ICCのカーン主任検察官がハマスの奇襲テロに対して報復攻撃を主導するイスラエルのネタニヤフ首相をハマスの最高指導者ハニヤ氏と同列に並べ、逮捕状を請求したことに対し、イスラエル国内ばかりか、米国でも批判が出ている。バイデン大統領はイスラエルのラファ攻撃には批判的だが、ICCの今回の決定に対しては「理解できない」として批判している。

ちなみに、ICCのカーン検察官の決定に対し、欧州の反応はまちまちだ。スペインやフランスは「ICCの決定を支持する」と表明する一方、ドイツやオーストリアでは慎重な姿勢を維持している、といった具合だ。

ドイツはナチスドイツの戦争犯罪という歴史を抱えていることもあって、イスラエルに対してはこれまで一貫して全面支持をとってきている。ただし、イスラエル軍のラファ攻撃で新たに多くの犠牲者が出てくるようなことがあれば、ドイツも何らかの対応が要求されるかもしれない。ドイツのショルツ政権がネタニヤフ首相への逮捕状を発布したICCの決定を支持せざるを得なくなるかもしれない、といった憶測が流れ出している。

米国を含む国際社会から強い批判と圧力を受けながらも、ネタニヤフ首相は「ハマスの壊滅」という目的を放棄せずにラファへの攻撃を強化している。そのような中、ハマスのテルアビブへのミサイル攻撃、ICCのネタニヤフ首相やガラント国防相への逮捕状請求はイスラエル批判であった国の中に再考する動きが出てくるかもしれない。

いずれにしても、ハマスはパレスチナ住民を盾にしながらイスラエル軍との戦いを継続していくだろう。戦闘が続けば多くの犠牲が出てくることは必至だが、ハマスは欧米のメディアを動員してイスラエル軍の蛮行を訴えるだろう。一方、国連ではパレスチナの国連加盟問題がアジェンダとなっている。パレスチナの国連加盟国入りはテーマだが、ガザでイスラエル軍と戦闘が展開中、戦闘後のガザの統治問題が不透明のなか、国連加盟国入りは時期尚早だ。国際社会のイスラエル批判が高まっている時を利用し、国連加盟を実現しようとするパレスチナ側の動きは一種の火事場泥棒だ。国際社会はハマスのテロに報酬を与えるようなことをしてはならない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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