ソ連共産党時代、レオニード・ブレジネフ書記長の夫人が政治のイベントに登場することは考えられなかった。そのタブーを破ったのはソ連最後の大統領、ミハイル・ゴルバチョフ大統領だ。ゴルバチョフ氏は生前、重要なイベントには必ずライサ夫人を伴っていた。BBCのモスクワ特派員は、「ゴルバチョフ氏は権力を愛したが、それ以上にライサ夫人を愛していた」と述べていた(「ゴルバチョフ氏、夫人の傍で永眠」2022年9月5日参考)。
中国共産党でも習近平主席時代に入ってからだろう。ファーストレディというステイタスが定着してきた。最近では、国賓としてフランスに招かれた習近平国家主席の傍には華やかな雰囲気を醸し出す夫人の存在があった。中国メディアも夫人の姿を大きく放映していた。
参考までに、北朝鮮では金正恩総書記の実妹・金与正さん(朝鮮労働党中央委員会第1副部長)の言動が頻繁に報じられてきた。ハノイでの米朝首脳会談では金正恩総書記の傍には常に金与正さんの姿があった。それだけではない。金正恩総書記はここにきて自分の娘を軍事視察や重要なイベントに連れ歩いている。
そのようなこともあって、金正恩総書記の後継者は北朝鮮初の女性指導者が誕生するかもしれない、といった気の早い論調もでてきた。儒教の伝統がまだ色濃い北朝鮮で女性指導者の誕生は大ニュースとなるだろう。
ファーストレディの政治舞台の登場は時代の流れかもしれない。ただ、ファーストレディがメディアに登場し、そのスキャンダルが報じられ、主人の政治活動にマイナスの影響を与えるといった事態も出てきている。
韓国で先月、総選挙が実施されたが、尹錫悦大統領の与党が記録的惨敗を喫したばかりだが、その敗因として尹氏の疎通不足や独善的スタイルの他、大統領の金建希(キム・ゴンヒ)夫人が高級バックを受け取った疑惑でメディアからバッシングを受けたことだ。美しいファーストレディゆえに注目されるが、問題が生じれば逆に激しく叩かれることにもなる実例だ。
ロシア軍と戦闘を展開中のウクライナのゼレンスキー大統領は戦争勃発の年(2022年)、ビデオを通じて国民を鼓舞し、祖国防衛の前線に立って歩んできたが、昨年後半ごろからオレーナ夫人が政治イベントに顔を見せる機会が増えている。戦闘が厳しくなり、大統領への批判の声さえ出てきている時、オレーナ夫人が大統領と共に、ある時は単身で国民の前で優しく語り掛けている姿が報じられ出した。
政治の表舞台で活躍する政治家、指導者の背後にあって、それを協助するファーストレディの存在が脚光を浴びてきているわけだ(最近では、ファースト・ジェントルマン、ファーストハズバンド)を連れ歩く女性大統領も珍しくなくなった)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方ウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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