調理定年と冷凍食品ニーズの拡大

新規顧客獲得も難しい。

セブン&アイ・ホールディングスが、「国内CVS戦略(23年10月)」の中で、訴えていたのは社会環境の変化だ。特に「調理定年」という言葉を用い、高齢化に伴う内食の増加、具体的には「冷凍食品」等のニーズ拡大を指摘している。「SIPストア」で冷凍食品を充実させたのは、このシニア層ニーズに対応するためだ。

だが、冷凍食品を購入する――とされる――シニア層が住んでいるのは、SIPストアのある「北口」ではなく、「南口」だ。常盤平駅南口には、世帯数約5,000、高齢者が半数を占める「常盤平団地」がある。この住民たちを、近隣で24時間営業の「西友」を通過させ、駅を超えさせるだけの魅力が、SIPストアにあるだろうか?

競合に対抗できる強みがなく、新規顧客獲得も少数にとどまる。もし、「SIPストア1号店」がフランチャイジー(フランチャイズ店)だったら、オーナーは苦境に立たされることになるだろう。

実験店舗としては適さない

では、「ノウハウ作り」すなわち実験店舗としてはどうか。

収益面では期待できないSIPストアが出店できたのは、「セブン-イレブン松戸常盤平駅前店」が直営店だからだ。「直営なので実験店舗に適している」という言い分が成り立つようにも思える。

だが、そもそも、この場所は「実験」には適さない。先に述べた通り、競合が多い。そのうえ、新規参入により環境が変わる。売上の増加(あるいは減少)が、テコ入れした効果なのか、それとも外部環境が変わった影響なのか、分析が難しくなる。

店舗自体の収益も期待できず、実験にも適さない。では、なぜ、「SIPストア」をオープンしたのか。

方便として活用された「SIPストア」

私見だが、SIPストアは「株主総会を切り抜けるため」の方便として活用されたのではないか。店舗オープンは、「株主発表の実行」という意味合いが強いのではないか、と考えている。

「SIPストア」の発表はかなり唐突だった。初めて決算説明会で「SIPストア」という言葉が出てきたのは、2022年10月。「物言う株主=アクティビスト(バリューアクト)」との対立が最も激化していた頃だ。

対立軸は、イトーヨーカドー・セブンーイレブン間に「シナジーがあるか、ないか」だった。

バリューアクトは、「シナジーはない」とし、イトーヨーカドーを売却しコンビニ事業に専念することを提案する。対して、セブン&アイは「シナジーはある」とし、いわば、その証として提示されたのが新型店舗「SIPストア」だった。

おそらく、以前からスーパーとコンビニのシナジー追求プランとしての「SIP」はあったのだろう。だが、アクティビストの批判をかわすため、「未成熟」な状態でプラン発表せざるを得なかったのではないだろうか。

その後、セブン&アイは株主総会(23年5月)を乗り切り、バリューアクトがセブン&アイ株式を手放して以降(※)、決算説明会資料には「SIPストア」の記述は見られなくなっている(23年度第2、第3四半期)。

※23年8月以前に売却の可能性がある、とされている 米ファンド、セブン株売却か バリューアクト、大株主外れる:時事ドットコム

これからのSIPストア

バリューアクトら株主に提示した「中期経営計画アップデート版」からは、即シナジー効果が高まるような印象を受けたが、今回の「SIPストア」オープンに関しては、

「仮説の検証」 「テスト店舗として位置付けている」 「次世代のセブン-イレブンを『模索』するのが趣旨」

など、トーンダウンしたコメントが目立つ。さらに、新業態ではないこと、多店舗展開は予定していないことを強調している。当然だろう。なにせ、まだ「模索」中だ。標準化・マニュアル化はできていない。よって、フランチャイズ展開はできない。

直営店も、多くはならないだろう。直営店は――フランチャイズ店と異なり――儲からないからだ。さらに、SIPストアは、ファストフードや、生鮮食品・コスメ・ベビーグッズなど品目数増加により従業員負担が大きくなっている。教育コストも増加する。セブン-イレブン本部にとって、SIPストアを増やすメリットはあまりないのだ。

株主はどう見るか

目的がぼやけた形でのオープンとなった、新コンセプト店舗「SIPストア」。

バリューアクトは大株主ではなくなった。だが、バリューアクト案に賛同した株主は少なくない。彼らは、この「SIPストア」をどう見るだろうか。

左:セブン-イレブン(筆者撮影)、右:「SIPストア」(セブン-イレブン松戸常盤平駅前店)セブン&アイ・ホールディングス プレスリリースより

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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