案の定、元理事、元次長にいいようにひっかき回された。武藤氏を招いた森会長が女性差別発言で辞任し、後任はビジネスにはずぶの素人、五輪スケート選手だった橋本聖子氏に代わりました。日本にはスポーツ・ビジネスをやる独立した企業がなく、電通などがそれを独占していた。受注者が発注者を兼ねると、今回のような事件が派生してくる。

そんな問題意識を抱かない首相や知事が政治的思惑から、五輪を誘致してしまう。新聞、テレビも協賛企業に名を連ね、受益者(広告・CM収入など)だから、告発者にはなろうとしない。「見て見ぬふり」が常態化している。

財務省OBから聞いた話では、「武藤氏は五輪組織委に入ることを嫌がっていた。石川県の総務部長として出向した縁で、森・元首相(石川県)の頼みを断り切れなかった」そうです。武藤氏の官僚人生の去り際には、黒田氏とは違って、同情の余地はあります。

そうはいっても、「事務総長を仰せつかったのは、財務省で37年間、国家財政の運営や組織、人事の管理で積み重ねた経験があったからだろう」と、武藤氏は述べています。それならどうして五輪の総予算が立候補時は7340億円、最終的には1兆7000億円と膨張し、関連経費を含むと3兆6800億円と5倍にもなった。こんな甘いことを続けている。日本の象徴です。

五輪に限らず、札幌冬季五輪(誘致断念)、大阪万博などの巨大プロジェクトの予算はどんどん膨張する。当初は小さく見せかけて計画を認めさせ、後から次々に「資材が高騰した」、「セキュリティ対策で費用がかかる」、「関連インフラの整備も欠かせない」と、予算を追加する。

巨大プロジェクトの総費用は最終的には、当初の2、3倍に膨れ上がる。政治が絡むとそうなる。財務省に37年いたというキャリアを生かす余地はなかった。だからこそ「日本は成長が停滞しているし、お祭りめいたビッグプロジェクトを実施する時代は終わった」とでもいうべきでした。

武藤氏は「若い官僚諸君のなんらかの参考になればいい」、黒田氏は「半世紀以上も現場にいた体験を、次世代を担う人々のために記そうと考えた」と、全く同様の執筆の動機を語っています。

私は「官僚人生の去り際は魔物が待ち受けおり、そこに引きずり込まれる。政治が絡むとくにそうなる。官僚(行政)と政治権力との距離を思慮をもって見直していかねばなならないと、日本は危うい」と、次世代の人たちは悟ってほしいと思いました。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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