- 労働者1人あたりGDPの実質値
それでは、各基準年のGDPデフレータで実質化した労働生産性を眺めていきましょう。
まずは、年間での生産性となる労働者1人あたりGDPの実質値です。
図2が、労働者1人あたりGDPの名目値(青)と、それぞれの基準年での実質値です。
1970年基準(赤)、1990年基準(緑)、2010年基準(橙)となります。
1970年基準(赤)が極端なのでわかりやすいですが、実質値は、名目値に対して物価上昇分だけ目減りした数値になりますね。
図1の1970年を基準としたGDPデフレータで名目値を割る事によって計算されるためです。
2021年では名目値800万円程に対して、実質値は250万円程です。つまり、1970年当時の物価で考えれば250万円相当の生産性となっている事になります。
当時は120万円程度だったので実質的な成長率は50年ほどの間に約2倍になります。
1990年基準(緑)を見ると、2000年以降は名目値よりも実質値の方が数値が大きくなっています。
これは、図1で見た通り1997年から2013年の期間でGDPデフレータがマイナスしていたためですね。
物価が下がった分だけ、実質値がプラス側に計算されます。価格を下げて、よりたくさん作り、よりたくさん消費していた事になります。
このため付加価値の金額的な総額(名目値)としては横ばいでした。
2021年では名目値800万円程度に対して、実質値は850万円強です。
2021年よりも高かった1990年の物価で見れば、数量的には850万円に相当する経済活動を行っていることになります。
2010年基準(橙)を見ると、2015年以降は名目値よりも実質値の方が数値が小さくなっています。
物価が上昇してきているので、名目成長よりも実質成長の方が低くなっている事になります。
- 労働時間あたりGDPの実質値
続いて、労働時間あたりGDPについても眺めてみましょう。
図3が労働時間あたりGDPの名目値(青)と、実質値の推移です。
労働者1人あたりGDPよりも上昇具合が大きくなっているのが特徴的ですね。
1990年基準だと名目値よりも実質値の方が大きく、2010年基準だと名目値よりも実質値の方がわずかに小さい事も共通しています。
実質では名目よりも成長の度合いが高いというのは1990年代以降の日本経済の特徴ですね。
- 日本の労働生産性の特徴
今回は日本の労働生産性について、基準年を変えての実質値をご紹介しました。
名目では停滞気味ですが、実質では成長の度合いが高いという特徴があるようです。
実質とは数量的な変化を見る指標ですので、よりたくさん作っている(実質成長)の割には、付加価値を稼げていない(名目停滞)という事も言えそうです。
平均給与は実質でも停滞が続いていますので、たくさん作っても、労働者への実質的な分配が増えていないという状況になっています。
家計からすると、収入は増えないのに、消費支出が増えている状況ですね。その分、投資や貯蓄(フロー)が減っている事になります。
近年は物価も上昇傾向で、少しずつ付加価値が増えていく方向へと変化している状況は見て取れますが、今のところその傾向が弱い印象がありますね。
今後どのように変化していくのか、引き続き注目していきたいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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