ドイツメーカーの混乱

日本の自動車メーカーだけに逆風が吹いているわけではなく、ヨーロッパ最大のドイツ自動車産業も困難な局面を迎えている。メディアではフォルクスワーゲンの人員削減や工場閉鎖だけが取り上げられているが、BMWの第3四半期は販売台数が13%減、売上高は15.7%減、利益は61%減だ。

BMWの抱える問題は中国での販売不振の要因が大きい。BMWであっても、中国ではSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)ではないことと、PHEVの車種の少なさなどにより痛手を被っている。

メルセデス・ベンツグループの2024年7月~9月期決算で純利益は前年同期比54%減になっている。Sクラス、Gクラス、マイバッハなどラグジュアリーカーの重要市場である中国で販売が低迷し、中国事業の売上高が17%減少しているのだ。

逆風強まる自動車産業
(画像=フォルクスワーゲン フォルフスブルグ本社工場、『AUTO PROVE』より 引用)

中国市場で大きなシェを誇っていたフォルクスワーゲンも中国で大きく後退している。さらにドイツでの経済的な問題も重なり、他のドイツメーカーに比べて工場数が圧倒的多いフォルクスワーゲンは、工場の削減や人員削減が迫られているのである。

国民のクルマであるフォルクスワーゲンの経営危機は、ドイツ国民に大きなショックを与えている状況だ。

逆風強まる自動車産業
(画像=フォルクスワーゲンの墓標と棺桶を掲げた労組の抗議デモ、『AUTO PROVE』より 引用)

ドイツの自動車メーカーが苦しんでいるのは、中国市場での販売減少という問題だけではなく、ドイツ国内の経済問題も大きくのしかかっている。

ロシアのウクライナ侵攻以来、ガス、電気料金が高騰し、電気料金はそれ以前の3倍にもなっている。またガソリン価格も値上げが続いている。

そして政治的には、メルケル時代とは異なり、現在の中道、ショルツ政権は不安定で効果的な経済政策が打ち出せず、混乱を極めている。

自動車関連では、2023年に右派政党により合成燃料を使用する内燃エンジン車の存続を認める決定や、2024年に入って突然のEV補助金の打ち切りなど混乱が続き、ショルツ首相の指導力は失われつつある。エンジン車維持を掲げる極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」、中道右派のキリスト教民主社会同盟が次期政権を握る可能性が大きくなっている。

こうした政策的な混乱、エネルギー価格の高騰、さらにインフレーションの進行などが重なり、ドイツ国内での自動車販売も減少するなど、自動車メーカーにとってはきわめて厳しい状況を迎えている。

自動車メーカーだけにとどまらず、メガ・サプライヤーも連鎖的に危機を迎え、最大手のボッシュは世界で5500人の人員削減を打ち出しており、ZF、コンチネンタル、フォルシアなども軒並み人員削減の計画を発表している。

なお、ヨーロッパではドイツ以外でも、激しいインフレーション、エネルギー価格の上昇が続いており、自動車販売は厳しい環境にある。

メディアの多くがヨーロッパでのEV販売の減速を取り上げ、見直されていると伝えているが、その背景にはEVかハイブリッドか、エンジン車かといった問題ではなく、圧倒的に経済的な不安定さ、インフレーションが原因と見るべきだろう。

アメリカの自動車産業も大混乱?

アメリカでは、トランプ大統領が再就任することで、大きな混乱が予想される。シェールガスや石油、天然ガスの採掘が加速され、環境保護局が手動する環境政策にブレーキが掛かり、最悪の場合はカリフォルニア州など11州が進めるゼロ・エミッション政策の行方も不透明だ。

また、トランプ氏は現時点ではメキシコから輸入される自動車関税を25%にすると主張している。もしこれが実現すれば、メキシコ工場を稼働させているトヨタ、日産、マツダは大打撃を受けることになる。

このように概観すると、当面の間は日本の自動車メーカーだけでなく、世界の主要自動車メーカーには厳しい逆風が吹き続けることが予想される。

文・松本 晴比古/提供・AUTO PROVE

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