この「国家権力」は、「行政」(自衛隊も行政に含む理解)の権力です。この場合、予め法で定めていない内容でも措置の内容を決めて実施することが可能です。
平時でも法に基づかない行政措置は侵害留保説的な運用の下で行われていますが、緊急事態における国家緊急権が想定してるのは、国民の権利利益の侵害も正当化するものです。例として外国人に対する生活保護や2、国葬の実施3が挙げられます。
これに対して菅野氏らが提唱するものは「国会機能の維持」のために採られる、予め法に定められた事項の効果であり、立憲的な憲法秩序が停止されないようにするためのものです。
軍が司法権・行政権を掌握する戒厳令と単なる緊急事態条項の違い戒厳令と単なる緊急事態条項も混同されがちなので整理すればいいと思います。
戦前は戒厳令があり行政戒厳の例などがありましたが、現在の日本の国会では戒厳令は議論されていません。
戒厳というのは、平たく言えば「軍が国家権力を掌握する」ことを意味します。
より具体的には、憲法・法律の一部の効力を停止し、行政権・司法権の一部ないし全部を軍隊の指揮下に移行することを意味します。
韓国の戒厳布告はまさにこの意味の戒厳でしたが、菅野氏らが提唱し憲法審査会でも議論されているものは、これとはまったく異なるものです。
韓国の戒厳は、戒厳令の中に国会による非常戒厳の解除要求決議が定められ、それにより戒厳を解除できることが定められています。このような予め定められた要件、国会が関与できる手続が規定されていたことの重要性が、韓国の戒厳解除の例から学ぶべきことであると言えます。
その意味で菅野氏の投稿は意義があるものであり、この機にどのような中身が議論されているのか、改めて知られるべきではないでしょうか?
1: 2:外国人の生活保護法上の受給権と行政措置:最高裁判所判決文全文 平成26年7月18日 平成24年(行ヒ)45号 – 事実を整える *3:国葬儀の「法的根拠」と唯一の立法機関・法律の留保・内閣府設置法:安倍晋三元内閣総理大臣の国葬儀について – 事実を整える