1. 工業の平均時給の推移

    それでは、工業の労働時間あたり雇用者報酬について、時系列での変化を眺めてみましょう。

    まずは為替レート換算値からです。

    図2 労働時間あたり雇用者報酬 工業 為替レート換算OECD統計データより

    図2が工業の労働時間あたり雇用者報酬の為替レート換算の比較です。

    年間の数値では日本は1990年代に極めて高い水準に達するのですが、労働時間あたりの数値だとピークでもドイツを下回るのが印象的です。

    日本はその後横ばい傾向が続き、2010年代からはOECD平均値やイタリアの水準を下回りますね。

    図3 労働時間あたり雇用者報酬 工業 購買力平価換算OECD統計データより

    図3がより生活実感に近い購買力平価換算の推移です。

    購買力平価換算では、アメリカとの物価比率分だけ調整されますので、日本の1990年代の高水準は打ち消されます。

    また、国内物価が停滞していてもアメリカの物価が上昇している限り、換算値は上昇傾向となる点にも注意が必要です。

    日本は購買力平価換算だと右肩上がりに成長しているようなグラフとなりますが、他国よりも低い水準が続いています。

    2008年頃からOECDの平均値を下回り、他の主要先進国との差が開いていくのが良くわかりますね。

    日本の工業の平均時給は、一般的な産業よりも高い水準ではありますが、主要先進国の中ではかなり低い水準となるようです。

  2. 工業の平均時給の国際比較

    最後に、OECD各国の最新の水準について比較してみましょう。

    図4 労働時間あたり雇用者報酬 工業 購買力平価換算 2021年OECD統計データより

    図4は工業の労働時間あたり雇用者報酬について、2021年の購買力平価換算値を比較したグラフです。

    黒丸は各国の全産業平均値となります。

    各国での給与水準の比較ですので、本来は民間最終消費支出ベースの購買力平価を用いるべきところですが、よりわかりやすさを優先してGDPベースの購買力平価で換算しています。

    日本は30.2ドルで、全産業平均値をやや上回ります。

    OECD30か国中18位で、全産業平均値が19位だったことと比べると順位はやや上がっていますね。

    ただし、OECDの平均値を下回り、ドイツ(56.9ドル)やフランス(53.3ドル)、アメリカ(51.2ドル)などと比較すると随分と低い水準のようです。

    労働時間あたり雇用者報酬 工業 購買力平価換算 2021年 単位:ドル 30か国中 1位 63.9 ベルギー 3位 56.9 ドイツ 5位 53.3 フランス 7位 51.2 アメリカ 10位 44.9 イギリス 14位 40.4 イタリア 19位 30.2 日本 平均 36.8

    工業は一般的に生産性や給与水準の高い産業と言われますが、図4を見ても概ね当てはまりそうです。

    ただし、ルクセンブルクやアイルランド、ポルトガルなど、平均値を下回る国もいくつかあるようです。

  3. 工業の平均時給の特徴

    今回は、工業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)についてご紹介しました。

    日本の工業は、全産業平均値よりもやや高い水準ですが、国際比較すると大分低い水準となります。最新の状態ではOECDの中でも低い順位ですが、産業間で見ると全産業平均値よりは上位となります。

    日本の工業は労働者数も国内総生産(GDP)も減少しています。

    工業の労働者数が減少傾向にあるのは各国共通ですが、GDPまで減少しているのは日本くらいです。(参考記事: 工業の縮小する工業立国日本 、 労働者数が増える産業とは?)

    図5 産業別 労働者数シェア 2019年OECD統計データより

    日本の工業の労働者は減少傾向と言えど、2019年では全体の17%程度を占め、労働者数の多い産業です。

    比較的生産性や給与水準が高く、労働者数の多い稼ぎ頭の産業とも言えそうです。

    非常に重要な産業と言えますが、2022年に円安が急激に進んだり、自動車産業のEVシフトが加速するなど環境の変化も著しいですね。

    今後の変化に注目していきたいと思います。

    皆さんはどのように考えますか?

    編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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