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黒坂岳央です。

日本の輸出産業といえば、圧倒的に「自動車」である。トヨタは円安で売上も大変好調だ。我が国の自動車産業はGDPに大きな影響を及ぼし、関連企業も含めると実に自動車産業における就業人口は500万人と全労働者数の7%以上もある。また、世界がEVで湧く中、先日同社は全固体電池搭載EVを全世界で投入すると発表するなど健闘している。

だが昨今、近年までなかった新たな産業がドル箱として浮上してきた。それが「観光業」である。日本に旅行する外国人が使う旅行消費は半導体や自動車部品を超えて、我が国第2位の経済効果がある。

日本は今や自動車大国であり、投資大国(海外への投資配当の収益)かつ、観光立国なのである。だが観光立国は他の製造業と違った課題もある。

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図表I-1-1-50 観光収入が及ぼす経済効果(訪日外国人旅行消費額と主な製品別輸出額との比較(2019年))

観光立国を目指す3つのメリット

観光立国となって外貨を稼ぐビジネスモデルのメリットは複数存在する。

1つ目は差別化である。日本は国として大変歴史が古く、また地形的にも風光明媚に恵まれ、我々日本人からすると普通、当たり前のことでも外国人にはAmazing!と映ることは多い。これは資金力がものをいう金融やITの世界ではなく、長い歴史や文化による蓄積によるものであり製造業などと異なり技術流出や競争はない。「日本に観光してきた」という体験そのものが彼らにとっての付加価値である。他国が一朝一夕で真似のできない、我が国の蓄積した歴史と文化に由来する付加価値は圧倒的な差別化ポイントと言える。

2つ目は付随消費である。訪日外国人は宿泊費、食費以外にも多額のお金を使ってくれる。国土交通省の2019年の調査によると、訪日外国人旅行消費額を費目別は宿泊費が34.2%、飲食費が22.6%、 買物代が26.3%を占めている。買い物代は4分の1以上を占めており、実は現地での飲食費よりも上なのだ。買い物の内容はサブカルグッズ、お菓子、薬、食品など多岐にわたる。こうした現地での消費もすべて円買い圧力で通貨をエンパワーメントし、同時に売り手の利益になる。

3つ目は雇用の創出である。米国ITテックのトップ企業はMagnificent Sevenと呼ばれ、S&P500指数構成銘柄の500社の売上高のうち、同7社が占める割合は約10%もある。だがこうしたテック企業は製造業などと比べると多くの人手を必要としないために、大規模な雇用を産まない(Amazonは別だが)。一方で観光産業は裾野の広いビジネスであり、労働集約型産業の筆頭でもあることから雇用創出につながる。