IT時代を迎え、迅速な意思決定が求められる世界に入った。決定が必要な時、決定が下せないという状況に陥る。多くの事例が裁判所に持ち込まれ、最高裁判所で最終的な判決が下されるまで多くの年月が必要となる。「民主主義では意思決定ができず、前に進めない」という考えが多くの人々の中に定着していく。

決断は迅速に下さなければならない。だから、私たちは自然と決断力のある強い指導者を探し求める。一種の独裁者待望論だ。ミュンクラー氏は「AfDの台頭や右翼ポピュリズムは民主主義への警告のサインだ」というのだ。

「民主主義の危機」という認識は久しい。例えば、スイス公共放送(SRF)のスイス・インフォのヴェブサイトでは民主主義について長い連載を掲載している。スイスの法学者マーク・ピエト氏は、「中立には疑問が付され、金融センターとしての地位も危うく、政治はビジョンに欠ける。スイスのアイデンティティーを支える柱が揺らいでいる」と警告を発し、スイスのバリューチェーン(価値の連鎖)の中核を為す前提条件が疑問視されていると受け取っている。スイスは直接民主制で、選挙と国民投票によって政治的、経済的課題について決定を下してきたが、そのスイスでも直接民主主義が果たして国家の繁栄と発展に通じるかといった問題が浮上してきたのだ。直接民主主義の要である国民投票の投票率は年々低下傾向にある。

2024年は約80カ国で選挙が実施される「史上最大の選挙イヤー」(英誌エコノミスト)だ。米ロの大統領選、世界最多人口のインド、パキスタン、インドネシアなど、総人口45億人が投票場に足を運ぶ。選挙が民主主義の要とすれば、2024年は民主主義の真価が問われる年といえるわけだ。

ただし、選挙には不正や腐敗が付きまとい、民主主義についても制度的欠陥が明らかになってきている。その結果、「強い指導者」を待望する声が高まってきている。「史上最大の選挙イヤー」は民主主義の勝利である一方、大きな危険も孕んでいるわけだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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